2011-09-01(木) [長年日記]
■ 会社の「安否確認システム」が頼りにならないので自分でなんとかする
うちの会社もご多分にもれず、防災の日*1である今日は安否確認システムの予行練習的なものがおこなわれたのだが、これがまぁ、なかなかひどいシステムでねぇ。
だいたい、携帯のキャリアメールを使って社員の安否情報を集めようって時点で間違ってるというか、3.11で電話(通話)とキャリアメールがほとんど役に立たなかった経験を生かせていない。さらに、組織の階層構造*2を遡る方向にしか情報が伝達せず、双方向性がいっさいない。今どきこれはないよなぁというレベルなので、使う側もモチベーションがあがらない。
自分が使うなら、せめてこれくらいの要件は満たして欲しい:
複数のチャンネルが使える
安否情報を報告するにしろ、受けとるにせよ、「メールだけ」とか「Webだけ」みたいな1ルートしか用意されていないと、そこが死んだらおしまいだ。せめて2つくらいは手段を提供して欲しい。まして、システムが国内にしかないというのは論外なので、サーバはせめて海外にも分散して置いて欲しい。
どこにいても使えて欲しい
災害発生時、オフィスにいるとは限らない。家庭にいたり、移動中だったりもするわけで、特定のネットワークの利用を前提にはしない(まぁ「インターネット」は「特定」ではないと考えていいけど)。あと、閲覧環境も「IEのみ」みたいな社内システムにありがちな制限をかけず、一般的なブラウザ、ガラケー、スマートフォンから当たり前に見れて欲しい。
同僚の安否を知りたい
上司としては、部下の安否がわかればそれで安心なわけだけど、部下にしてみれば報告だけして情報ナシとかありえない。むしろ一番心配なのは一緒に働いてる同僚たちなわけで、彼らがちゃんと相互に安否を確認しあえるシステムでないと価値がない。
で、これらを満たす方向に今使われてるシステムが進化するとはとうてい思えないので、できる範囲で自衛するしかない。
3.11ではTwitterやFacebookは極めて安定していたので、太平洋海底ケーブルでも切れない限り使えるだろう(東京が壊滅したらダメかも知れないけど、その時は色々とおしまいだろうから心配してもしょうがない)。とりあえず自分のプロジェクトメンバーは全員Facebookに入らせて、クローズドなグループに登録。相互に連絡が取れるようにした。メールでも投稿できるし、WebもPC・モバイルに対応しているから上記の条件はかなり満たしている。これがプライマリチャンネル。あとはTwitterで相互フォロー状態にでもしておけば、第二のチャンネルとして使える。
こういうボトムアップ型の仕組みは、全社に導入するような方向には進めにくい。というか、会社としてお金出せないよね、会社は社員をバルクで扱って「何%が無事です」って報告がしたいだけなんだから。Facebook上に日本企業の組織構造を再現するのは不可能だろうし。でも、本当に現場で求められている要件は既存のサービスだけで十分満たせちゃったりするわけで、なんだかなぁと思いつつ、とりあえず「プロジェクトのメンバが相互に安否を確認できる」というおれ個人の要件は満たせたからまぁいいや。
*1 そういえば来年からは3.11にも何かやる流れなのかな、やっぱり。
*2 これだけは見事なくらいにバッチリ再現していて、さすが日本の企業はこういうどうてもいいところにコストをかけるわと感心する(イヤミ)。
2011-09-03(土) [長年日記]
■ ロータリーカッターを買ったー
デカくてゴツくて重い断裁機を自前で買う気はないのだけど、雑誌や薄めの本(「薄い本」ではない)をパパッと断裁して自炊したいという時はよくある。で、いろいろ聞いてみるとロータリーカッターならわりと簡単かつきれいにできるそうだ。
というわけで買ってみた。ちなみにAmazonで買うと同時にアルミの定規とカッターマットを勧められるので、まぁそういう人たちが主な購入者ということですね。カッターマットはあればいいとは思いつつ、別に新聞紙でも下に敷けばいいので今回はパス。まっすぐ切るために定規だけいっしょに買った(ただし販売元は別々)。
今回買ったロータリーカッターは自炊派御用達の大口径60mmで、いかにも切れ味のよさそうな刃を表紙にあててグッと体重をかけると、1cmくらいは潜り込んでくれる。そのまま定規に沿ってグググッと回転させていくと、けっこう気持よく切れていく。もっとも、勢い余って指もいっしょに切り落としても怖いので、けっこう緊張するけど。
というわけで、積んであった何冊かの雑誌を無事、電子化できた。他にもバイク雑誌の古いのとか、意味もなく保管しているやつはこれで電子化しておこう。また野望に一歩近づいたぜ。
オルファ(OLFA) ロータリーカッターLL型 136B
オルファ(OLFA)
¥1,064
B000ALF4KK
2011-09-04(日) [長年日記]
■ 翼の贈りもの (Seishinsha SF Series)(R.A. ラファティ)
ラファティの本は、読むたびに「わけわかんねーー!!」と思うくせについつい買っちゃうんだよな。といいつつ買ってから三ヶ月も放置していたわけだけど(電子積読が20冊を超えている状況ではいたしかたない)。
ハヤカワ文庫あたりでまとめられた短篇集なんてぜんぜん「わかりやすい」と言えるくらい、論理もへったくれもないぶっ飛んだ話ばかりが収録されていて、一編読むたびにクラクラしてしまうのだけど、それでもなんだか「嬉しい」というのがラファティ独特の読後感。
指の骨が異常発達して飛べるようになった新人類(?)が旧人類と不自由な同居を強要される表題作はまだわかりやすい。というかこれはむしろラファティらしくないくらいに実に美しい作品ですな。短い周期で繰り返す宇宙でただ一度の発明を競うあう「ユニークで斬新な発明の数々」なんて、クスクス笑いながら読んだけどさっぱりわからん(笑)。ラファティを語る時によく使われる「キャンプで焚き火を囲みながらホラ話を披露しあう」というシチュエーションがまさにぴったりの作品ばかりだ。
まぁ、読む人を選ぶけど(ボソ)。
2011-09-06(火) [長年日記]
■ 出版社はみずから「自炊代行サービス」を提供すればいいんじゃないの
出版社7社、作家・漫画家122人が、自炊代行業者に対し「あんたらがやってるのは法律違反なんだけどどう思う?」って質問状を投げたそうで(参考:出版社からスキャン代行業者への質問状を全文公開、潮目は変わるか)。これ、顧客のニーズにいっさい目を向けずに、既存ビジネスを守るためだけに敵を叩くという、音楽業界とまったく同じルートをとっているわけだけど、出版社には自殺願望の持ち主しかおらんのか?
仮にこの「脅し」が功を奏したとすると、自炊代行業者は廃業、読者はここに名を連ねた出版社・作家を敵視して購買を控え、出版社・作家はさらに収入減……と、Win-WinどころかLose-Lose-Loseではないか。愚かな。
というか事実、おれはもう紙しか出さない出版社には見切りをつけ始めていて、電子版が買えない本はできる限りブックオフで調達するようにしてる。だって断裁料のこと考えたら、新品買ってなんていられないもん。「自炊」なんてバカバカしい行為は早くやめたいし、ちゃんと作家に還元されるルートで本が買えるならぜひそうしたいんだけど、出版社が率先して邪魔をしてるんじゃしょうがない。
まぁ、もし今後新刊がすべて電子書籍として買えるようになったとしても、書庫に眠っている多量の本が場所を取っている状況は変わらないわけで、なんらかの方法で電子化したいという欲求は変わらない。でも現状の「自炊代行」に問題があるのだとしたら、なぜ出版社みずからがそれを行わないのか。自炊代行(に類した事業)を出版社が行うと、問題は一気に解消すると思うのだが:
- 「複製」が出まわることがない。スキャンした書籍が読者の手元に戻るからいけないのであれば、利害関係者である出版社みずからがきちんと処分し、複製を残さないようにできるはずだ。
- 一度だけスキャンすれば良い。同じ書籍のスキャン依頼が来ても、バカ正直に毎回スキャンする必要はない。次からは以前のデータを送り返せばいいだけなので、コストは大幅に下がるだろう。顧客が希望すれば、本当の「電子書籍」を送り返しても良い。
- 作家に還元できる。下がったコスト分は作家に還元すればいい。もちろん、許諾も出版社が取ればよいので、「無許可の複製」も同時に解決できる。
出版社が単独で事業化すると、その出版社の本しか対象にできないから、大手印刷会社あたりがBOOKSCANを買収して、複数の出版社の代行をするのが手っ取り早い。読者はニーズを満たされて満足度向上、作家も還元を受けられて、しかも出版社がうまく回せば収益も上がる。こんないい話をなぜだれもやらないの?
「自炊ブーム」という動きを、チャンスととらえてすばやくビジネスを興した自炊代行業者たち。他方、作家と直接コンタクトでき、権利関係の課題を一気に解消できるリソースを持っている出版社は、このチャンスを棒に振ろうとしている。どちらが優秀な経営者か、書くまでもないよねぇ。
◆ nori [自分でやるとしても、こうするでしょ。]
◆ ? [レンタルCDやDVDと同じで 自分で複製する→個人の範囲でOK 業者に依頼する→NG ってだけだろ。何言ってんの??..]
◆ ただただし [> TJ スキャンに関わるのは著作権(複製権)、電子書籍の発行は出版権であるという違いのことを指していますか? そう..]
◆ yoosee [仮に論点が「自炊された電子複製が無許諾に大量に流通すること」であれば自炊業者を止めることは特に意味がありませんよね。..]
◆ ただただし [うん、代替案がないこと、読者の方を向いていないことの2点が反発を受けるポイントですよね。出版社と作家はそのことをわか..]
◆ nobio [それは誰が言ってるのですか、と質問したら あなたも質問状には書かれていないことを主張されているようですが? と返答さ..]
2011-09-07(水) [長年日記]
■ グスタフ、飼い猫になってから2年が経つ
グスタフを庭で拾ってから、今日で2年になる。さすがにこの日ばかりは、家を出る時にあたりを見回して、捨て猫がいないかどうか確認してしまう(笑)。幸い、今年はなにもいなかった。
現在、体重7.0kg。1年前の30%増。明らかに肥満の傾向。そろそろ成長を止めてくれないと困るレベルです。
といっても、普段近所で見かける父親(とおぼしき猫)みたいにふてぶてしい顔ではなく、相変わらず写真のように愛嬌のある顔をしている。これが飼い猫ゆえのユルさか。でもドーラはもうちょっとシュッとした顔してるんだよな。性格ですかね。
写真は、リビングに置きっぱなしのキャリー(またの名を「猫小屋」)に半身だけ入って外をうかがっているところ。緊急避難用に買ったキャリーが、完全に据え置きになってしまった。
2011-09-09(金) [長年日記]
■ Chromeの検索に「ダ・ヴィンチ電子ナビ」を追加する
複数の電子書籍ショップを横断検索できるダ・ヴィンチ電子ナビがオープンしたというのでさっそく使ってみた。いろいろ文句は言ってるけど、よほどDRMがひどすぎない限り*1積極的に電子書籍は買いたいので、Amazonで探せないものが簡単に見つかるなら歓迎である。
トップページを見たときの「コレジャナイ感」には凄まじいものがあったが(ああいう記事を読むのが今の電子書籍業界の想定読者なのかしらん?)、こっちは検索機能だけ使えればいいのだ。どういうわけかデフォルトでは紙と電子書籍をまとめて検索する選択肢しかないので(紙はAmazonで探すのでいらないって……)、簡単に使えるようにURLを解析して、Chromeの検索窓から直接使えるようにした。
Chromeの「オプション」→「基本設定」→「検索エンジンの管理」を開くと、各種検索エンジンを登録する画面になるので、一番下にこんな感じで入力する:
一番右の欄には
http://ddnavi.com/c/books/search/%s/全て/電子書籍/
と入力する。「%s」の部分が検索キーワードに置換される。
中央欄の「k」は、検索ショートカットキーで、ChromeのURL欄にフォーカス移動して、[k][スペース]と続けて入力することでこの設定をすぐに使えるようにするのだ。さっそく先日こぼした件小松左京の本が買えない件を電子書籍で解消してみよう。[Alt+d][k][スペース][小松 左京]と入力するだけ*2:
ここで「Enter」。
おおー、けっこうあるなー。でもBookLive!か。あそこは独自フォーマット(?)で専用ビューアが必要だから、買う気になれないんだけど*3。まぁ、見るだけ見てみようか。「果しなき流れの果に」をぽちっ。
えっ(笑)。
お後がよろしいようで。
2011-09-11(日) [長年日記]
■ 「緑のカーテン」を作るぞ(8) - 2Fの窓に到達
もうすっかり秋……と思いきや、最高気温は連日30℃を超え、まだまだ残暑が厳しい。そんなわけなので、我が家の緑のカーテンにもがんばってもらわねばなりません(←白々しい)。
もっとも、想像した以上に生育が早くて、何本かの蔓はいつの間にか2Fの窓に到達しているという(うち1本はさらに上まで)。毎日1つずつしか花をつけないという省エネ(?)のおかげか。かみさんに聞いたらこの品種、11月まで花をつけるんだそうだ。じゃあまだまだ伸びるのかな。あんまり寒くなってから日光を遮られても困るけど。
2011-09-13(火) [長年日記]
■ 夜明けの言葉(ダライ・ラマ14世)
以前紹介した『本が好き!』、あれから3回ほど献本に応募して、そのたびに抽選から外れていたのだが、そもそも読みたい本がなかなかなくて、きっとおれが読みたがる本は競争率が高いに違いない(とは思えないけどいちおうそういう仮説)、じゃあ間違っても自分から読もうとは思わなそうな本に応募してみよう! という方針変更で臨んだら一発で当選してしまいました。それがコレ。どういうこったい!
厳格な無神論なので、宗教関係の本は研究目的でもない限り読むことはないから、まぁ貴重な経験ですな。もっとも、これまでに見聞きしたダライ・ラマの発言には頷くことも多かったので、特に違和感はなかった。というか、誤解を招き、低俗な響きになるのを承知で言うなら、いわば「抽象度の高いライフハック本」である。
ダライ・ラマ14世本人が執筆したものではなく、たくさんの講演の中から、だいたい1ページ以内に収まる分量で抽出した「引用集」という体裁。発言の内容によっていくつかのカテゴリに分けられている。すべて独立しているからどこから読んでもいいし、カテゴリに縛られる必要もない。あと、チベット各地で撮影されたたくさんのカラー写真が良い彩りを添えていて、見ても読んでも楽しめる本。
面白いことに、チベット仏教の高僧の講演なのに仏陀に関する話はほとんどなくて、いつでも慈悲深くあろうとか、「敵」とどう向きあうかといった「生き方指南」的な内容がほとんど。それも「超自然的な何か」を仮定することなく、なんでも合理的に説明しているので納得度がすごく高い。仏教はもともとそういうものだけど、おそらく修行僧に向けたと思われる説法以外はすべてそんな調子なので、巷のライフハック集から下衆な部分を徹底的に排除したらこんな感じになるんじゃないか。ライフハック好きにはウケそう。
一方、構成面での問題があって、そもそもこれらの言葉がいつ、誰に向けて発せられたものなのかという情報がいっさいない。仏陀や輪廻という言葉が出てくるところはたぶん修行僧に向けての説法だと想像できるけど、その他の引用はどういう文脈で語られたのかまったくわからない。つまり「引用」のルールがいっさい守られていない。たぶんカテゴリ分けも編者の一存で決められていると思われるので、ダライ・ラマの意図とは違う読ませられ方をしてしまう恐れもある。文脈から離れて意味を持つ言葉はもちろんあるだろうけど、それを検証できないというのはちょっと危険だなぁと思った。
2011-09-14(水) [長年日記]
■ 的川泰宣さんの講演を聴いてきた
仕事つながりで縁があり、尊敬する的川泰宣さんの講演を聴いててきた。
最近のエッセイを読んでいると、膝をはじめ体のあちこちが良くないようだし、油断していたらお話を聴ける機会も失われてしまうのではないかという危惧もあり(←縁起でもない)、こういうチャンスは逃してはいけない。まぁ、蓋を開けてみれば2時間ぶっ通しで水も飲まずにしゃべりっぱなしという、どんだけ元気なのよという嬉しい驚きだったのだけど。
テーマは(例によって)「はやぶさ」ということもあり*1、知らない話はほとんどなかったのだけれど、導入でコスモスカレンダー(宇宙の年齢を1年間にたとえると人類の歴史なんてちっぽいけ云々という例のヤツ)の話を始めたと思ったら、「9月(太陽系誕生)頃のできごとを知りたい人々がいる」という振りから小惑星探査の話へ。さすが。
他にも映画のネタバレ(笑)から、川口さんが臼田のオペレータたちに毎日欠かさずお茶を差し入れた話、「こんなこともあろうかとダイオード」に関わる秘話など、ちょっとずつ初耳な話題を盛り込みながら、「はやぶさ」を成功に導いた「きずな」が、震災後の日本人の高い評価と同じ土壌から生まれたという話を経て、21世紀の尊敬される国になろうというメッセージへ。
最初から最後までまったく飽きることなく、ずっしりと重いものを受け取った。的川さんはほんとうにすばらしい。これからも元気に活動を続けて欲しいものだ。
*1 奇跡の帰還からもう1年以上たつのに衰えないこの人気ぶりは凄まじい。
2011-09-16(金) [長年日記]
■ オライリーは電子書籍と一緒に「安心」を売っている
(書いてあったのに公開するのを忘れていたことに気づいた9/19公開)
今日、IDEA*IDEAのAndroidマーケットでオライリー本がすごく安いといった記事が流れていて、それはまぁいいんだけど(英語の話だし)、ちょっと見過ごせない言葉が:
↑ さらにExportもできるだと・・・。これを使えば好きなリーダー使うことができますね(しかしグレーな機能だな、これ・・・)。
1冊1冊が独立したAndroidアプリになっていて、EPUBファイルをエクスポートできるという機能のところなんだけど、「グレー」ってなんやねん。Tim O'Reillyインタビューを読めばわかるが、オライリーの電子書籍にDRMは使われないし、TimのスタンスからしてEPUBエクスポートなんてむしろできて当然の機能なんだけど。
オライリーはこういうところに本当に心を砕いているなぁというか、紙の書籍から電子書籍に移行するにあたって、紙のポータビリティを可能な限り満たそうとしてるように感じるんだよね。現在、もっとも「寿命」の長そうな電子書籍フォーマットはEPUBだと思うけど、これにDRMがかけないということは、仮にオライリーが潰れても、そしてEPUBビューアが存在しなくなっても、コンピュータさえあれば読むことができる*1。「目」さえあれば読むことができる紙の本に肉薄しようと思ったら、DRMフリーのEPUB、これしか選択肢はない(次点はPDF)。
データさえ手元にあれば、将来に渡って読み返すことができる。それも誰に制限されることなく。本を買う側にとって、これがどれだけ安心できることか、説明不要だろう。オライリーの電子書籍を買うという行為には、この「安心感」が付いてくる。値段なんかより、このことの方がよっぽど重要だ。
ひるがえって日本では、「ガラパゴス」進化せず シャープ、9月末で販売終了 「iPad」に対抗できずというニュースが流れてちょっとした騒ぎになったりする。冷静に考えれば、他社を巻き込んで拡大路線にあるGALAPAGOS「サービス」がそう簡単に終わるわけがないわけで、これは単にGALAPAGOS「専用端末」の販売終了というニュースにすぎないとわかる。だが、(記事のタイトルがあからさまなミスリードとはいえ)市場の反応はそうではなかった。おかげで慌ててシャープ担当役員、「GALAPAGOSは決して撤退しない」と釈明する始末。
こんな反応をされてしまうのも、採算がとれなくなったらすぐに撤退するんじゃないかという疑いを持たれているからであって、それを払拭する努力もしなければ、仮に撤退しても買った本が確実に読めるという保証もしてくれないからだ。特定の端末でしか読めない本なんて怖くて買えないし、ましてやその継続性に疑問があったら手を出す気にもなれない。なにしろシャープは既存のSpace Townを閉鎖してGALAPAGOSへ誘導するなど、囲い込みに懸命なのがミエミエで、今後閲覧環境が拡大するとは信じられないわけで、今回の市場の反応はその「不安」がみごとに現れていたと思う。
もうちょっとオライリーの考え方を見習ってくれないと、国内のサービスから電子書籍を買いたいとは思えないんだよねぇ*2。
とはいえ、こういう文句を言うのは、年間数十万円以上を本代につぎ込み、家の床が抜けるほど本を溜め込むようなタイプの人々だけかも知れない。そしていま、電子書籍に乗り出そうとしている日本の企業が相手にしているのは、そういう人たちではない、という仮説も成立する。
ではどういう人たちを想定顧客にしているのかというと、本を単なる消費財として考えている人たちだ。読み終えた本を家に置かずにすぐさま捨てたり、ブックオフに売り払ったりする人たちがいる。音質が悪くても、機種変したら消えてしまうことがわかっていても、ネットからDRMガチガチの音楽データを買うような人たちも、この国には大勢いる。彼らなら、いま各社が進めている「囲い込み型の電子書店」でも本を買ってくれるかも知れない。
もしそうだとすれば、そしてiTunes PlusやAmazon MP3にいつまでたっても国内レーベルの音楽が増えないという現状から推論すれば、オライリーのような理想的な電子書籍を日本では決して買うことができないということにもなるのかも知れない。悲しいことだが、仮にそれで市場が成立してしまえば、そういうことになるだろう。
そういう意味で、出版デジタル機構には少しだけ期待している。というのも、この組織が国立国会図書館の長尾館長の構想を受けてのものだと理解しているからなんだけど。と、OnDeck 007号を読んでそう思ったのであった。
*1 なにしろEPUBは最悪でも中見のHTMLを取り出して読むことができる。
*2 もちろん例外もあり、オライリージャパン、オーム社、技術評論社、それからもちろん達人出版会は将来に渡って読めるフォーマットの電子書籍を販売してくれている。
2011-09-17(土) [長年日記]
■ ドーラ、医者が嫌いになる
ドーラがワクチン接種の季節になったので病院へ連れていった。ドーラ用のキャリーバッグを用意して、蓋を開けておいたらいつの間にかグスタフが入っていたといった前座的なできごとがあったがそれは本題ではない。
これまでドーラは病院に行っても平然としていて、注射もへっちゃらだったのだけど、今日は着いたとたんに不安そうな声で鳴き始め、診察台に載せたらグスタフそっくりの声で「フーッ」とか「ぐるるるるぅ」とかいって怒る怒る。おれの顔とグスタフを関連付けて覚えている院長がすかさず拘束用の檻を取り出したので、しかたなく放り込んだ。
グスタフみたいにおもらしはしなかったものの、そのまま最後まで落ち着くことはなく。やっぱり、避妊手術で痛い&怖いメにあったから、病院が嫌いになっちゃったのかなー。(特に根拠はないけど)ドーラはいつまでも平然としているもんだと思ってたんだが。こうやって、年々通院が難しくなるのか、猫って。
2011-09-18(日) [長年日記]
■ 茨城県のパラボラアンテナを訪ね歩……いや走る
3連休なので、夏の間さっぱり乗れなかったバイクに乗ろう、それもできれば長距離乗ろうと決心し(まだ暑いのでわりと強い決心が必要)、だったら茨城あたりまで足を伸ばそうということで、2004年の4月10日と4月11日に行って以来の巡礼へ。ただ、今回は日帰りなので逆回り&ショートバージョン。
まずはできるだけすばやく北上しようということで、5時発、東名→首都高→常磐へ。東へ向かうのはものすごく久しぶりで、その証拠に例の「ぐるぐる」も初めて通った。それはまぁいいんだけど、そのあとの山手トンネルはめちゃめちゃ気温が高くて(たぶん40℃超えてる)、延々と熱風にあてられてミイラになるかと思った。首都高はバイクに厳しいなぁ。
旧KDDI茨城衛星通信所
ここの一般名称というか総称はなんと呼んだらいいんだろうねぇ。電波天文台に生まれ変わった2基の32mアンテナのうち高萩側にあるものは、立ち入り禁止だったKDDI時代とは違い、すぐそばまで接近できる。いい時代になったものです。日立側のは敷地への立ち入り禁止なんだけど。公園の桜並木は健在なので、また桜の季節に再訪したいもの。
ところですぐ近くにあったNTTの十王衛星通信地球局、なくなったとは聞いていたけど、ちょっと寄ってみたら本当に跡形もなく消え去っていた。残るはフェンスのみ。3基の同口径アンテナが同じ方を向いて並んでいるのはいい風景だったんだけどなぁ。かつての勇姿はこちらで。
NTTドコモ揚枝方衛星通信所
ちょっと北上して揚枝方へ。相変わらず、ナビがなかったらぜったい辿りつけない自信がある。
それはそれとして、しばらく見ないでいたら、ずいぶん薄汚れちゃって。たまには掃除してやって下さいよ、ドコモさん。
鹿島宇宙通信研究センター
揚枝方から南下してくると、常陸太田にも寄れるんだけど、あそこは遠くから狙わないといけないから木々の葉が邪魔な季節に行くのは不正解。なので次の機会に譲るとして、ずばーっと南下して鹿島まで。こないだの公開日には行けなかったけど、その時の写真を見たらどうもペイントし直したようだったので確認。
いやー、ピッカピカになってたよ。写真によると主鏡の内側になにやら字も描かれているようなんだけど、今日は「お休み姿勢」だったのでそこまでは確認できず。来年の公開日には絶対に行かなくては。というかここのアンテナ、公開日以外に動いてるところを見たことがないんだけど。
そういえば、34mの目の前の土地が分譲中なんだけど、パラボラクラスタのだれか、家建てませんかね? 朝、窓を開けると目の前にババンと日本で3番目に大きなアンテナですよ。
国土地理院つくばVLBI観測局
そろそろ陽が傾き始めてるのでこれで最後ということで、つくばへ。10月にTSCの公開があるのでそれに合わせて来てもいいのだけど、これだけいい天気なら見ておいて損はない。
で、つくば市街に入って遠くからアンテナが見えてくる。日曜だし、たぶん「お休み姿勢」だと思っていたら、なんか傾いてる。しかも、遠目にもグリグリ動いているのがわかる。ぎえー、(たぶん)国内2位の高機動アンテナの稼働シーン! これを見逃してはなるものか。
慌てすぎて裏門(閉まってる)に突っ込みそうになったり、表門までの周回路がやたら長くてキレそうになったりしつつ、やっと現地着。アンテナ直近の駐車場(本館からは遠く離れているので誰も使わない)にバイクを停めて、カメラを片手に走り寄る。その間にもけっこう頻繁にグイングインと動き回っていて、今日はなかなかサービスが良い。ちょうど180度近く回頭するシーンが撮れたのでYouTubeにうp。
セミの声なんかが入っているのも季節感があってよかろう。止まったあと、しばらくの間けっこう大きな「ギシギシ」という軋み音がしたりして、精度の高いアンテナだけどやっぱり相当な重量があるんだよなぁとわかる。それにしても、動くと印象が変わるねぇ、アンテナは。いままで「なんだかぼってりしていてダサい」とか言っててすまんかった、あんたカッコイイよ。
その他の写真はアルバムにて。
上の写真は揚枝方周辺の田んぼで。さすが茨城は取り入れ間近な水田がたくさんあって、この季節はきれいですな。茨城も震災でけっこうな被害を受けているはずで、実際海沿いの道では「地震の影響による下水道工事中」なんて場所があちこちにあるし、利根川を渡る大きな橋がまだ通行止めだったりして、その爪あとはまだまだ生々しかったりするのだけど。
そんなわけで、今日は4ヶ所回って帰宅。パラ充乙。帰りも山手トンネルに突撃して熱射病になりかかったりして、あの道はちょっとシャレにならんぞ。とはいえ混んでるのが明らかなC1通るのもなんだしなぁ。
◆ smbd [山手トンネルは熱さ厳しいですねぇ。夏に通ると死ぬかと思います。とくに新宿方面から東名に行く方向が、途中1車線になって..]
2011-09-20(火) [長年日記]
■ 9784839937751
買ったまま放置してたら半年以上経過してしまった。でも古びてない、ソーシャルメディアの現状を俯瞰するにはいい本だと思う。概略から仮想ケーススタディ(←これはビミョウ)、ユーザ事例にプラットフォームへのインタビュー、広告屋さんたちの座談会から、最後は活用企業へのアンケートで定量的な情報も。こういう本って、著者の個人的な体験に閉じてて本当に一般化できるのかどうか疑問に思うことが多いんだけど、ソーシャルメディアで食ってるループスの中の人たちが持ちまわりで書いていることもあって、話の幅が広い。参考になる。
おれの身の回りでもぼちぼちソーシャル活用を……なんて声が出始めていることもあるので、いろいろ武装しておく必要があって買ったんだけど、基本を押さえるという意味では役に立ちそう。ただ、自分の仕事に関係するBtoBの事例は皆無に近いし、失敗事例もほとんどない(成功事例よりむしろこっちが知りたいよね)。そういう意味ではクライアントを説得したりするのに使うにはちょっと不足感もある。
まぁ、そういう用途の本が出るにはもう半年から一年くらいかかるのかも知れんのだろうなー。そもそもBtoBの成功事例なんて聞いたことないもんな。
2011-09-21(水) [長年日記]
■ ふたたび帰宅難民化する(本年2度目)
中心気圧940hPaという強力な台風15号が接近、夕べは名古屋が水没して100万人単位で避難勧告が出たりして、今日はいよいよ関東直撃と予想されていたので、まぁとっとと帰るなり休むなりしておけばよかったのだが。ちょうど午後から浜松町でプレゼン&納品という予定だったのでのんきに出かけ、17時に終わって会議室から出てきたらフロアに誰もいなかったという。なんで誰も知らせてくれないの!(笑)
浜松町あたりからウチ(またはその近く)まで帰るとなると、小田急線、横浜線、田園都市線の3ルートがあるのだけど、それらも含めて首都圏のほとんどの鉄道が、おれが帰宅しようとするタイミングを見計らったかのようにバタバタと運休。動いているのは地下鉄だけという状況になってしまった。
3.11に続いて、なんと今年2回目の帰宅難民化である。
3.11で学んだことがひとつあるとすれば「慌てて動いたら負け」という原則である。「行けるとことまで行こう」とばかりに拙速に行動すると、どうしょもないところで足止めを食らったり、途中で停車したぎゅうぎゅう詰めの列車に缶詰になったりする。だから早期帰宅はさくっと諦めて、地下街のイタリアンカフェに入った。
なにせバッグの中にPCはあるわ、Kindleには常に未読本が20冊は溜め込んであるわ、時間潰しには事欠かない。状況を観察しながらコーヒー&読書でのんびりする。
20時近くになると「小田急復活(か?)」みたいな情報が入り始めたので、そのまま同じ店で腹ごしらえをして、大江戸線で新宿へ。ちょうど10分間隔で準急が走り始めたので潜り込む。ちなみに駅は入場制限で写真のようなありさま、相模大野から先は小田原線も江ノ島線も倒木のため運休という状況。いやー、想像以上にすごい台風だったようだ。
それでも、登戸で運よく座れたし、走ってるうちに相模大野以西も開通したので、そのあとは(時間がかかったものの)ちゃんといつものように帰ってこれたのだが。3.11よりはずいぶんマシだったよ。今回の教訓があるとすれば、「台風が来たら休め」だな。そうもいかないんだけど。
2011-09-23(金) [長年日記]
■ 電書版・9784774134314
「ソーシャルメディア・ダイナミクス」のあとにこれを読むのはちょっとイジワルかもしんないな。3年前に出た本だけど読みそこねていたので、先日パブーからでた「電書版」を買ったのであった。
3年前というとTwitter / Facebookといったソーシャルメディアは今ほどもてはやされておらず、CGMの主役はまだブログ。そんな中で「(企業が狙って仕掛けた)クチコミなんて成功しないよ」という指摘を空気を読まずにした本。まぁ、本書の指摘はまったくその通りで、いっけんネットで盛り上がっているように見える話題が、実際に売上増につながっているケースなんてほっとんどないにもかかわらず、なんだかみんな「ネットのパワー」に夢見てたんだよね。Amazonあたりの書評はけっこう低評価のものが多いけど、あれはたぶん「夢を壊されて怒ってる」人たちだな(笑)。
で、このことは2011年の今になってもたいして変わってはおらず、キャンペーンで強制ツイートさせるようなありがちなプロモーションを仕掛けてみたところで、その商品を継続的に買うようになったなんて話は聞いたことがない。影響力や露出を考えたらいまだオールドメディアが一番効果的で、単に広告の延長線上で考える「クチコミマーケティング」なんて絵空事だよねという、ごくごくあたりまえの(でも目を背けがちな)話である。終盤に掲載されている座談会では、そのあたりがセキララすぎるくらいセキララに話されていて、なかなか刺激的で面白い。
じゃあソーシャルメディアはどう活用すればいいのかというと、顧客との信頼関係構築の手段として使うくらいしかないわけで、ザッポスの成功なんかは単なる「クチコミマーケティング」じゃなくてそっちに軸足を置いて議論すべきだ。だとすると次にくるのは「信頼関係構築」が成功したかどうかはどう「測定」すればいいの? という話になるんだけど、本書でもそれを課題として位置づけつつも特にアイデアはないようだった。解析屋としてはこれをクリアしないと提案もへったくれもないんだけどなぁ。
先日も社内でTwitterを使ったマーケティングに関する議論していたときに、「Twitterでやれることなんてアクティブサポートくらいしかないだろ」という話をしたんだけど、著者の新作がまさにそのネタで、つまり本書の電書版公開はそのためのプロモーションの一貫という話なのであった。せっかくだから読んでみるか:
9784844330745
もっとも、新作は紙でしか売ってないようで、「電書版・そんなんじゃクチコミしないよ。」からそのまま新作も電子書籍で読みたい読者としてはガッカリだし、マーケティング的にどうなのよそれ、と思った。読者との信頼関係が構築できてないじゃん。インプレスなら電子書籍を売るルートだってあるだろうに。電子書籍を単なるプロモーション手段として使わないで欲しい。
ちなみに「電書版・そんなんじゃクチコミしないよ。」には電書版向けの追加パートがあって、この3年間で何が変わったのかを概観したりているのだけど、197~198ページにかなりひどい乱丁があった。今日になって再ダウンロードしてみたけど直ってないなぁ。と、ここで指摘しておいたら直るかね。
◆ 河野 [乱丁部分は確認して、修正したものをアップしましたので、大変お手数ですが再ダウンロードをしていただけますでしょうか。 ..]
◆ ただただし [河野さん、どうもです。乱丁というか、保険の話の後半に結婚式の話がだぶって上書きされているようなので、元データが壊れて..]
◆ 河野 [ぼくの電子書籍についての持論は「紙の書籍に無料でおまけとしてつけろ」です。 紙はいらないから安くしてという意見がある..]
◆ ただただし [「無料でおまけ」というのは、まずは体験してその良さを実感してもらう戦略ですよね。でも、データだけあっても生活を変容さ..]
◆ 河野 [そうですね、よくわかります。 いまの出版社(と出版業界、出版ビジネス)ではそれは実現できなそうですね。だから外圧、外..]
◆ 河野 [補足です。 数百冊が悪い、とうことではなく、それでは著者と編集者のふたりすら食えないという意味です。]
2011-09-24(土) [長年日記]
■ グスタフ、ふたたび脱走する(未遂)
先日の台風の影響は我が家には及んでいない……と思っていたが、猫脱走防止のネットが一部破壊されていたことが判明した。というのも今朝、いるはずのないところにグスタフがいたからなんだが。
去年のグスタフの脱走をうけてベランダにネットを張ったのだけど、その後、ネットのたるみを利用して器用に手すりの外側を歩いて屋根の上に出られることに気づいたようで(体重があるからできる技)、それを阻止するために透明なアクリル板をネットと手すりの間に挟んで固定しておいたのだ。
そのアクリル板が台風で破壊されて、ふたたび屋根の上に出られるようになっていたらしい。そこからフェンス経由で脱走まではあと一歩である。
幸い、餌で釣ったら近づいてきたのでふん捕まえて屋内に引きずり込んだのだけど、油断してるとまた脱走しそうだったのでその日のうちにアクリル板を復活させた。写真は、再設置されたアクリル板を恨めしそうに確認するグスタフ(撮影: かみさん)。このあと、どうすれば乗り越えられるか、いろいろなポーズを試しながらチャレンジしていた。妙に賢いんだよなぁ、グスタフは。
2011-09-25(日) [長年日記]
■ BOOKSCANを利用してみた(1)
すでにKindleでしか本を読む気がおきない自分の中では、本を紙のままで後生大事に保管しておく必然性はもはやない。自炊代行業もこの先どうなるか不透明なこともあり、蔵書の電子化はできるかぎり進めておいた方がよさそうだ。ということでまずは文庫から、どんどん電子化してしまうことにした。
自炊代行業者の選択をする上で、条件は以下:
- 原本を破棄してくれる
- そこそこ早いレスポンス
- キンコーズと同じ程度にリーズナブルなコスト
業者に「複製」をさせる気はない。単なる「データ変換」でなければならないから、原本の破棄は必須。すぐに読みたい本もあるから、納期まで何ヶ月も待つのはなし。あとはキンコーズの100円/cmの断裁料に遜色のない料金。
そんな感じで絞っていくと、けっきょく最大手であるBOOKSCANしか残らないのであった。まぁ、予想はできたことだけど。
原本破棄は徹底している(と謳っている)し、プレミアム会員になれば1週間以内の納品が約束される。問題はコストなのだけど、
- 約10,000円/月で50冊まで
- 断裁、スキャン、OCR化に加えて一括ダウンロードなどのサポートが充実
「1冊」の上限は350ページで、それを超えると200ページごとに「1冊」と勘定される。文庫の小説がまた微妙に350ページを超えていることが多くて、絶妙に悔しい思いをすることが少なくないのが難点。ちなみに本棚から適当に抽出したところ、今回は28冊で「50冊相当」になった。けっこう少ない。Amazonの小箱で十分まかなえる量だ。写真は大きさの比較のために猫(7kg)を横に置いておきました。
これに宅配便の送料(だいたい1,000円?)を加えると、350~400円/冊のコストになる。キンコーズよりはだいぶ高い。が、キンコーズで断裁するとその後のスキャン他もろもろの作業は自力なわけで、ScanSnap S1500ならまだしもS1300な我が家の環境ではそうとうな手間が省けると思えば、まぁ許容範囲かなぁ。BOOKSCANにはいわゆる「Kindlize」の無料サービスもあるので(完成度は「?」だが)、手間を省くという意味では十分にペイできている。もっともこの先、書庫の文庫本をぜんぶ電子化するのに数万円投入すると考えると、ちょっと躊躇してしまうコストではある。
明日には荷物がむこうに着くはずなので、その後の経過は追って。
2011-09-26(月) [長年日記]
■ BOOKSCANを利用してみた(2)
昨日BOOKSCANに送った、(BOOKSCAN換算で「50冊分」になる)28冊の文庫本、すばらしい日本の物流のおかげで今日のうちに到着し(まぁ都内だし)、さっそく開封されて受付された。BOOKSCAN、プレミアム会員相手とはいえ、仕事早いわー。本当に「最優先」でやってるんだな。
受付だけでなく作業の進捗状況までWeb上で確認できるんだけど、どういうわけか「51冊」としてカウントされている:
どれか1冊、「351ページ」とかそういうビミョーなページ数だったんだろうなぁぁぁ。ちと悔しいが、そういうところを柔軟に対応しすぎると過剰サービスでコストアップにつながるのでまぁよろしい。これが1週間以内に全部スキャンされ、OCRまでかけてダウンロード可能になるというのだから、楽しみに待とうではないか。
もっとも「51冊分以上は、別途対応方法についてご相談させていただきます。」という記述もあるので、あとから相談されるのかも知れないな。まぁ、相談なしで来月回しにされてもいいんだけど。あー、でも上巻だけ今月スキャンされて下巻は来週よとか言われたら悲しいか(笑)。
以下余談。
まだモノを受け取っていないうちから評価をするのもどうかと思うが、BOOKSCAN、かなりすごいねぇ。
プレミアム会員向けには上記のようなステータス報告を逐一するし、終わったPDFデータは会員専用の書庫から好きな時にダウンロードできる。しかもまとめてダウンロードするために専用Adobe Air製アプリまであるし、iPhone/iPad向けには書庫管理アプリもある。その上、各種読書端末向けに最適化するオンラインサービス「チューニングラボ」も提供。ただの労働集約型の「作業代行業」ではなくて、ちゃんと開発力のあるWebサービス会社として成立してる。開業してから2年だというから、その間にいろいろ工夫して今の形になっているのだと思うが、2年でここまでやるかー、と感心してしまう*1。最近は海外進出して(「1DollarScan」)けっこう人気という話も聞いたし。
先日「出版社はみずから「自炊代行サービス」を提供すればいいんじゃないの」という記事を書いたら、「出版社は儲からないと知ってるからやらないんだよ、バーカ」みたいな上から目線の意見をくださる人もいたけどさ、そりゃ高コスト体質がしみついた出版社が自力でこんな事業を立ち上げられるわけがないのは言われなくてもわかりきってるでしょ。だから「BOOKSCANを買収すれば」って書いたんだけどね。作業場所を都内に抱えた状態でこれだけの低コスト運用しつつ、ユーザ視点でサービスを拡充し、しかも着々と事業拡大中ってんだからすごいよねぇ。
*1 とはいえ実際に作業してる人たちは相当過酷な労働ではないかと想像するが。
2011-09-27(火) [長年日記]
■ BOOKSCANを利用してみた(3)
昨日受付されたと思ったら、今夜になってもう完了の通知が来た。コンビニで発送してから約50時間、受付完了から数えても30時間くらいか。BOOKSCAN速い! すげぇわ。しかも、「51冊」としてカウントされていたけど全部スキャンされていた。これくらい誤差の範囲として処理してもらえるのかな?
プレミアム会員向け無料サービスとして、PDFファイルにはOCRがかけられて、ファイル名も書名ベースのものに変更されているから、そのままWebからダウンロードするだけでいい。カバーは外して送ったのに、どういうわけかファイル名にはISBNが含まれてるわ、Web上の一覧には表紙の書影までついている。これはたぶん、書名から検索してAmazonのデータを引っ張って来てるんだろうなぁ*1。
数十冊の一括ダウンロードにはAdobe Air製の専用アプリがあるので使ってみた:
ダウンロード先を指定して、あとは待ってるだけ。けっこう速い。
入手したPDFファイルは、おそらくモノクロ/グレー600dpi、カラー300dpiでスキャンされたとおぼしきサイズ(文庫本1冊で100MBくらい)。画質は必要にして十分だ:
BOOKSCANには各種端末向けにこのデータを最適化してくれる「チューニングラボ」というサービスがあって(プレミアム会員には無料提供)、Kindleも対象になっているから試しに使ってみた。これもWeb上でぽちっとするだけ。ほんの数分で変換されたのであまり期待はしなかったが、まぁこんなものか:
余白カットがまだまだだし、圧縮しすぎて(たった20MBになってた。1/5だ)画質も悪い。これなら、手間はかかるが自作のKindlizerの方が読むときにストレスがなくていいかな。完全に自動で余白をカットするのはたぶんムリなので、この差は縮まるまい。
いずれにせよ、品質に文句はないな。今後も継続して使って、本棚を空っぽにしよう!
*1 書影の利用はたぶんAmazonに叱られると思われるので継続性には疑問がつく。
2011-09-28(水) [長年日記]
■ 体系的に学ぶ 安全なWebアプリケーションの作り方 脆弱性が生まれる原理と対策の実践(徳丸 浩) (電子版も出たよ!)
実はばけらさんから誕生日プレゼントにもらったんだけど(ありがとうございます)、大型本はKindlizeできない(字が小さくて読めない)から、ベッドサイドに置いて1日数ページずつ読んでいたのだった。
本書の評価はもう定まっているので、もはや内容についていちいち書く必要はないかもなぁ。Webアプリケーション開発に携わる者なら必ず読んでおくべき、セキュリティの教科書的存在だ。もう、発注時の条件に「開発者全員がwasbookを読んでおくこと」って書いておいてもいいくらい。網羅性、信頼性に加え、わかりやすさの面でも申し分ない。
でもさー、仮に10年前に本書があったとしたら、きっとおれ、Webアプリケーションには手を染めてなかったと思うね(笑)。というくらい、近年はセキュリティに関して知っておかなければいけないことが多すぎる。それは本書が500ページ近い大書であることからもわかる。作る前からこれ全部しっかり対策しろって言われたら、ちょっと気が遠くなる。
もっとも最近のセキュリティホールハンター(の穏健派)は、立ち上がったばかりでセキュリティリスク低めのWebサービスにはあまり目くじら立てない風潮もあるみたいなので、CSRFみたいに設計時から考えておかなければならない対策を除けば、そんなに身構えなくてもいいのかも知れない。まずは走り始めて、成功の兆しが見えてきてから気合い入れて取り組んでも遅くはない(その時点で手遅れになっていなければ)。
とはいえ勘所を知っているのと知らないのとでは、将来の手間が大きく違うわけで、やっぱりみんな読んでおけよ、という点には変わりがない。で、500ページにもなる分厚い紙の本を持ち歩くのはちょっと……と躊躇していた人には朗報である。今日、ブックパブから電子版が発売。DRMフリー*1のPDFで、特価1,800円。紙のほぼ半額! これは買うしかないでしょう*2。
ソフトバンククリエイティブの書籍も今後はこの形式で出てくることが増えそうなので、少なくともIT業界には電子書籍に対する正しい認識が広がりつつあるようで、喜ばしいかぎりですな。
2011-09-29(木) [長年日記]
■ 今日のAmazonの発表で一番すごいのは「Kindleのメモリを2GBに減らした」こと
いやぁ、今日発表になった新しいKindle、いいよねぇ。カワイイ。これは欲しいわ。
えっ? Kindle TouchでもKindle Fireでもない、無印Kindleなのかって? そりゃそうです。
ときどきKindleを持ってくるのを忘れて、仕方なくスマフォでmobiファイルを読むことがあるんだけど、タッチインタフェースで読書するというのは、けっこうストレスが溜まるのよ。なにしろ、「紙面」に常時指が乗っているわけで、指をどかさないと読めない部分があるってことだから。しかも電車で立って読んでる時に揺れたりすると、落とさないように端末をしっかり掴みたいけど、うっかり画面に触るとページがめくれちゃったりするわけで、何も考えずに「がしっ」と掴める現行Kindleは実にいいデザインだと思う。まぁ、たしかにあのフルキーボードはちょっと垢抜けないのだけど。
その旧Kindleからフルキーボードだけとっぱらって小さく軽くなった新しいKindleが悪いはずがない。TouchやFireではなくなった左右のページめくりボタンも健在だしね。あれは右手で持っても左手で持っても簡単にページめくりができる、非常にすばらしいデザインのたまものなので、やはりKindleには欠かせない要素だと思う。これで画面が7インチになってくれれば、理想の読書端末なんだがなぁ。
あー、あと、内蔵メモリが4GB→2GBに減っちゃったんだよね。廉価版だしなぁ……と、ここまで考えてはたと思いつく。そうか、これをアメリカで使っている人たちは、(もちろん)AmazonからAZW形式の電子書籍を買って読んでいるわけで、2GBもあればもう、読み切れないほどの本を入れておくことができるのだ。おそらくAmazonは、ユーザの「蔵書数」をオンラインで調査して、たいていの人には4GBも必要ないってことを知ったのだと思う。
もちろん$79という破壊的な価格を達成するために削れるものはなんでも削る、結果としてメモリも削ったということだとは思う。しかし「2GBで十分」という判断があったのは間違いないのだ。
ちなみにおれのKindle(内蔵メモリ4GB)は、まだ数十冊しか入れてないけど、残りが500MBを切ってどうしたものかと悩んでいるところ。そりゃそうだ、テキストなら数MBで済む本を、わざわざ画像にして100MB以上もの大きさに増やしてるんだからな!
アメリカの読者は2GBでもあり余るほどの「書庫」を持ち歩ける。一方日本の我々は4GBあってもぜんぜん足りない。この現実に気づいて、なんだかものすごく悲しくなってしまったよ。はぁ。
2011-09-30(金) [長年日記]
■ Amazon-Auth-ProxyをSinatraに移植してHerokuで動かす
先日発表になったGoogle App Engineの値上げはGAE上で無償サービスを運用していた人たちをパニックに陥れたが、tDiaryとて無関係ではない。amazon.rbが使っているProduct Advertising API用リバースプロキシがGAE上で稼動しているからだ。
GAEの値上げ自体は11月まで猶予されたが、それでもやはり、ああいうロックインされやすい環境に依存するのは危険だ。で、同じサービスをまちゅさんがheroku + Sinatraに移植してくれたので、そちらに引っ越すことに。たぶん10月末に予定されているtDiaryの次のリリースからはこちらを使うことになると思う。
さて、リバースプロキシだけでなく、認証プロキシの方もいつまでもCGIじゃねーだろというかもっと移植性の高い環境で動かさないとね、ということで。Sinatra移植に挑戦してみた。仕事でRuby使ってるつっても主にデータ処理なのでWebアプリの新作はもう何年も作ってないわけで、新しい技術のキャッチアップはぜんぜんしていないのだ。もちろんRailsでもいいわけだけど、そんなデカいものを作る予定もないのでまずはSinatraから。
というわけでGithubの方にいろいろ追加→amazon-auth-proxy。元のCGIをそのままライブラリとして使っているのでかなりひどいアーキテクチャだが、RSpecで不完全ながらテストも書いたし、Rack上で動くようにしたし、Bundler対応もした(というか対応しないとHerokuで動かせないみたい……なのかな?)。なんかモダンじゃーん。
で、これをHerokuで動かす。この手順を簡潔にしておけば、誰もがプロキシを運用できるはず。まずはgemでherokuをインストールし、「heroku create」でアプリケーションを作成する:
% gem install heroku ... % heroku create amazon-auth-proxy-tdtds Enter your Heroku credentials. Email: t@tdtds.jp Password: Found the following SSH public keys: 1) id_dsa.pub 2) tdtds.pub Which would you like to use with your Heroku account? 1 Uploading ssh public key /home/sho/.ssh/id_dsa.pub Creating amazon-auth-proxy-tdtds... done, stack is bamboo-mri-1.9.2 http://amazon-auth-proxy-tdtds.heroku.com/ | git@heroku.com:amazon-auth-proxy-tdtds.git Git remote heroku added %
これでamazon-auth-proxy-tdtds.heroku.comというサイトができた。ここにプログラムをgit pushすればデプロイできるのだけど、さて、ここで問題が。設定ファイルには秘密にしておかなければならないAmazonのキーが含まれるので、これをGitHub上に公開するわけにはいかない。たぶん良いプラクティスがあるのだと思うが、とりあえずローカルにreleaseというブランチを切って、そこに設定ファイルを含めてHerokuにpushすることにした。
% git checkout -b release % cp amazon-auth-proxy.sinatra.yaml amazon-auth-proxy.yaml % vi amazon-auth-proxy.yaml ...KEYなどを書き換え... % git add amazon-auth-proxy.yaml % git commit -m 'added yaml file for release.' ... % git push heroku release:master Counting objects: 90, done. Compressing objects: 100% (86/86), done. Writing objects: 100% (90/90), 12.94 KiB, done. Total 90 (delta 44), reused 3 (delta 0) -----> Heroku receiving push -----> Ruby/Sinatra app detected -----> Gemfile detected, running Bundler version 1.0.7 Unresolved dependencies detected; Installing... Using --without development:test Fetching source index for http://rubygems.org/ Installing diff-lcs (1.1.3) Installing rack (1.3.2) Installing rspec-core (2.6.4) Installing rspec-expectations (2.6.0) Installing rspec-mocks (2.6.0) Installing rspec (2.6.0) Installing tilt (1.3.3) Installing sinatra (1.2.6) Using bundler (1.0.7) Your bundle is complete! It was installed into ./.bundle/gems/ -----> Compiled slug size is 680K -----> Launching... done, v4 http://amazon-auth-proxy-tdtds.heroku.com deployed to Heroku To git@heroku.com:amazon-auth-proxy-tdtds.git * [new branch] release -> master
ありゃー、いりもしないRSpecまでインストールされちゃってるな。これはGemfileで開発用のgemだけ分離するような書き方があるのだろう(と、tDiaryのGemfileを見ながら学習)。まぁいいや。なんにせよ、本当に簡単で拍子抜けするくらいだなぁ。これが現代のPaaSか!(今ごろなに言ってんだ)
というわけでいちおう動くようになったけど(プロクシなのでブラウザからアクセスしてもなにもないよ)、まだ異常系もロクにできていないのでもうちょっといじってから本番投入するとしよう。
◆ まちゅ [dotCloundの場合は、設定ファイル(dotcloud.yml)に環境変数を書くやり方みたいですね。 http:..]
◆ ただただし [まぁたしかに、ソースツリーに設定ファイル含めちゃったら、サーバ増やせないもんなぁ。しかし環境変数を使うとサーバはスケ..]
◆ hsbt [group :test を除外するには BUNDLE_WITHOUT を使います(これはHeroku特有の設定) h..]
◆ ただただし [あー、次善の策として環境変数を使うというのはいいね。そうしよう。 :testの除外については、ログに「Using -..]
◆ hsbt [Gemfile に group :test do ... end を作らないとダメです!]
◆ ただただし [ああ、それはもちろん。]
◆ smbd [3.11のときに、アメリカ行きのケーブル結構切れてたらしいですけどね。 http://www.janog.gr.jp..]
◆ xibbar [うちの http://www.you-ok.jp/ の参考にさせていただきます。ありがとうございます。]
◆ ただただし [要件の1個目はともかく(xibbarさんがが2個目にひっかかるような実装をするとは思えないし)、3個目は個人情報保護..]
◆ xibbar [1個目はまあなかなか技術的にも難しいのですが、とりあえずうちはYou-OKは海外です。うちのは「安否確認に答えて!」..]