2011-09-23(金) [長年日記]
■ 電書版・ そんなんじゃクチコミしないよ。 <ネットだけでブームは作れない!新ネットマーケティング読本>(河野 武)
「ソーシャルメディア・ダイナミクス」のあとにこれを読むのはちょっとイジワルかもしんないな。3年前に出た本だけど読みそこねていたので、先日パブーからでた「電書版」を買ったのであった。
3年前というとTwitter / Facebookといったソーシャルメディアは今ほどもてはやされておらず、CGMの主役はまだブログ。そんな中で「(企業が狙って仕掛けた)クチコミなんて成功しないよ」という指摘を空気を読まずにした本。まぁ、本書の指摘はまったくその通りで、いっけんネットで盛り上がっているように見える話題が、実際に売上増につながっているケースなんてほっとんどないにもかかわらず、なんだかみんな「ネットのパワー」に夢見てたんだよね。Amazonあたりの書評はけっこう低評価のものが多いけど、あれはたぶん「夢を壊されて怒ってる」人たちだな(笑)。
で、このことは2011年の今になってもたいして変わってはおらず、キャンペーンで強制ツイートさせるようなありがちなプロモーションを仕掛けてみたところで、その商品を継続的に買うようになったなんて話は聞いたことがない。影響力や露出を考えたらいまだオールドメディアが一番効果的で、単に広告の延長線上で考える「クチコミマーケティング」なんて絵空事だよねという、ごくごくあたりまえの(でも目を背けがちな)話である。終盤に掲載されている座談会では、そのあたりがセキララすぎるくらいセキララに話されていて、なかなか刺激的で面白い。
じゃあソーシャルメディアはどう活用すればいいのかというと、顧客との信頼関係構築の手段として使うくらいしかないわけで、ザッポスの成功なんかは単なる「クチコミマーケティング」じゃなくてそっちに軸足を置いて議論すべきだ。だとすると次にくるのは「信頼関係構築」が成功したかどうかはどう「測定」すればいいの? という話になるんだけど、本書でもそれを課題として位置づけつつも特にアイデアはないようだった。解析屋としてはこれをクリアしないと提案もへったくれもないんだけどなぁ。
先日も社内でTwitterを使ったマーケティングに関する議論していたときに、「Twitterでやれることなんてアクティブサポートくらいしかないだろ」という話をしたんだけど、著者の新作がまさにそのネタで、つまり本書の電書版公開はそのためのプロモーションの一貫という話なのであった。せっかくだから読んでみるか:
Twitterアクティブサポート入門 「愛される会社」時代のソーシャルメディアマーケティング
インプレス
¥510
もっとも、新作は紙でしか売ってないようで、「電書版・そんなんじゃクチコミしないよ。」からそのまま新作も電子書籍で読みたい読者としてはガッカリだし、マーケティング的にどうなのよそれ、と思った。読者との信頼関係が構築できてないじゃん。インプレスなら電子書籍を売るルートだってあるだろうに。電子書籍を単なるプロモーション手段として使わないで欲しい。
ちなみに「電書版・そんなんじゃクチコミしないよ。」には電書版向けの追加パートがあって、この3年間で何が変わったのかを概観したりているのだけど、197~198ページにかなりひどい乱丁があった。今日になって再ダウンロードしてみたけど直ってないなぁ。と、ここで指摘しておいたら直るかね。
感想ありがとうございます。
乱丁についてはすぐに確認して対応します。
なお電書を単なるプロモーションというのは誤解です。この本は絶版になってしまったので救済のために電書化したまでです。たまたまタイミングがあったのでそう見えるのもしょうがないですし、ぼくもタイミングがあったことを幸いに8月はキャンペーンとして割引にしたので乗っかったことは否定しませんが、そもそもは別の案件として進行しています(出版社も別ですし)。
また蛇足のついでではありますが、新作の電書は著者の一存でどうこうできるものではないので現時点では(話はありますが)実現できていません。現時点では相当優遇されるような著者でなければ発売時に電書もというのはできないはずです(少なくともぼく程度では話になりません)。
『Twitterアクティブサポート入門』の電書版を出せてない事実に対しての率直な感想は受け止めますが、現時点では解決策の提示ができなくて申し訳ありません。
ただ、ぼく個人は電書よりも紙の本で出すことを優先して出版しているので(電書優先なら最初から出版社と契約しなくてもできるわけで)その点はご理解いただければうれしいです。
乱丁部分は確認して、修正したものをアップしましたので、大変お手数ですが再ダウンロードをしていただけますでしょうか。
このたびはご指摘ありがとうございました!
河野さん、どうもです。乱丁というか、保険の話の後半に結婚式の話がだぶって上書きされているようなので、元データが壊れてる風です……と書いていたら修正された! さすがパブーは早いですね。確認しました、ちゃんと話がつながっているようです。すばやい対応ありがとうございました。
新刊の電子化に関しては、私は(出版社の意向や契約の問題が主たる制約であることは重々承知の上で)ノイジーマイノリティであることに自覚的にこういう発言を続けているので、ビジネス的な価値がないと判断するなら無視されてもけっこうです。なにしろ電子書籍は儲かりませんからね(笑)。
が、電子版→紙版への誘導というものが、電子書籍の読者にとって相当「がっかり」なものであるということは、(マーケッターとして)知っておいていただきたいと思います。個人的には、それはもう、その著者の作品を二度と買いたくなくなるくらいにがっかりです。
ぼくの電子書籍についての持論は「紙の書籍に無料でおまけとしてつけろ」です。
紙はいらないから安くしてという意見があるのは分かっているのですが、たぶん現実的な落とし所はここからかなと思っています。
(それすらできていないのは著者としてもとても残念ですが)
ほんとの理想は電書だけでの購入も認めた上で、トータルとして利益が出ることなんですけど、関係者が多すぎて(つまり分配が小さくなるため)なかなか難しそうだなあと感じています。自費出版(電書orオンデマンド印刷)のほうが可能性はありそうな気すらしますね。
ともあれ、ぼくも(マーケターである以前に)読者なので、提供する・される価値とその対価については今後も考えていきます。
もちろんたださんはじめ、みなさんの意見もとても参考になっています!
「無料でおまけ」というのは、まずは体験してその良さを実感してもらう戦略ですよね。でも、データだけあっても生活を変容させるような体験にはつながらないので、普及の起爆剤にはならないと思います。CDからMP3を生成するのは昔から簡単にできましたけど、iPod登場まで「音楽データ」が普及しなかったのと同じで。
自費出版の可能性はおっしゃるとおりで、出版に携わる人数をガツンと減らさないと電子書籍はペイしないでしょうね。最低でも著者と編集者さえいれば電子書籍は出版できるのだから、それで収益が出るような体制にすればいいんだと思います。収益構造が違うのだから、紙の出版と同じ事業部でやってはいけないという指摘もあります(出典失念)。
そうですね、よくわかります。
いまの出版社(と出版業界、出版ビジネス)ではそれは実現できなそうですね。だから外圧、外資に頼るというのもどうなのかなあと思いますが、日本での電子書籍の本格普及にはまだまだ時間がかかりそうです。
自費出版は実現は簡単ですけど、やっぱり規模が数百冊程度になると思いますし。
補足です。
数百冊が悪い、とうことではなく、それでは著者と編集者のふたりすら食えないという意味です。