2011-09-06(火) [長年日記]
■ 出版社はみずから「自炊代行サービス」を提供すればいいんじゃないの
出版社7社、作家・漫画家122人が、自炊代行業者に対し「あんたらがやってるのは法律違反なんだけどどう思う?」って質問状を投げたそうで(参考:出版社からスキャン代行業者への質問状を全文公開、潮目は変わるか)。これ、顧客のニーズにいっさい目を向けずに、既存ビジネスを守るためだけに敵を叩くという、音楽業界とまったく同じルートをとっているわけだけど、出版社には自殺願望の持ち主しかおらんのか?
仮にこの「脅し」が功を奏したとすると、自炊代行業者は廃業、読者はここに名を連ねた出版社・作家を敵視して購買を控え、出版社・作家はさらに収入減……と、Win-WinどころかLose-Lose-Loseではないか。愚かな。
というか事実、おれはもう紙しか出さない出版社には見切りをつけ始めていて、電子版が買えない本はできる限りブックオフで調達するようにしてる。だって断裁料のこと考えたら、新品買ってなんていられないもん。「自炊」なんてバカバカしい行為は早くやめたいし、ちゃんと作家に還元されるルートで本が買えるならぜひそうしたいんだけど、出版社が率先して邪魔をしてるんじゃしょうがない。
まぁ、もし今後新刊がすべて電子書籍として買えるようになったとしても、書庫に眠っている多量の本が場所を取っている状況は変わらないわけで、なんらかの方法で電子化したいという欲求は変わらない。でも現状の「自炊代行」に問題があるのだとしたら、なぜ出版社みずからがそれを行わないのか。自炊代行(に類した事業)を出版社が行うと、問題は一気に解消すると思うのだが:
- 「複製」が出まわることがない。スキャンした書籍が読者の手元に戻るからいけないのであれば、利害関係者である出版社みずからがきちんと処分し、複製を残さないようにできるはずだ。
- 一度だけスキャンすれば良い。同じ書籍のスキャン依頼が来ても、バカ正直に毎回スキャンする必要はない。次からは以前のデータを送り返せばいいだけなので、コストは大幅に下がるだろう。顧客が希望すれば、本当の「電子書籍」を送り返しても良い。
- 作家に還元できる。下がったコスト分は作家に還元すればいい。もちろん、許諾も出版社が取ればよいので、「無許可の複製」も同時に解決できる。
出版社が単独で事業化すると、その出版社の本しか対象にできないから、大手印刷会社あたりがBOOKSCANを買収して、複数の出版社の代行をするのが手っ取り早い。読者はニーズを満たされて満足度向上、作家も還元を受けられて、しかも出版社がうまく回せば収益も上がる。こんないい話をなぜだれもやらないの?
「自炊ブーム」という動きを、チャンスととらえてすばやくビジネスを興した自炊代行業者たち。他方、作家と直接コンタクトでき、権利関係の課題を一気に解消できるリソースを持っている出版社は、このチャンスを棒に振ろうとしている。どちらが優秀な経営者か、書くまでもないよねぇ。
著作権と出版権、印刷とスキャン画像を混同してるあたりが惜しい
自炊なんかより、出版社はみずから「電子書籍」を提供すればいいんじゃないの?
>>自炊なんかより、出版社はみずから「電子書籍」を提供すればいいんじゃないの?
古いすでに持っている紙の本を自炊するわけで、電子書籍を出版しても自炊はなくならいかなぁ。
出版社を叩きたいみたいだけど、
作家・漫画家122人が賛同してるじゃん。
いくらでもバラまける自炊データを出版社自ら推し進めるなんてより積極的な自殺じゃないか 何言ってんだ
「スキャンした書籍が読者の手元に戻るからいけない」という文言も「スキャンしたらそのつどいくらか作家に還元すべし」という主張も質問状には見当たらないのですが、誰が言ってるのですか。
>もちろん、許諾も出版社が取ればよい
現状ではかわぐちかいじも甲斐谷忍も京極夏彦も許諾しないでしょう。
http://www.dotbook.jp/magazine-k/2010/01/21/illegal_distribution_of_japanese_manga_and_anime/
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現在、海外、とくに北米では「日本産アニメやマンガは
無料で手に入るもの」という認識がファンの間で“常識”
となり、人気作品が数十万、数百万単位で違法に視聴さ
れ、読まれていることを知っても、「このままでいい」
と思う著作権者は少ないのではないだろうか。
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問題は自炊それ自体じゃなくて、
自炊された電子複製が無許諾に大量に流通することです。
後者が問題なので前者に歯止めをかけたい、と。
後者の懸念がなければ、出版社だって自炊代行の邪魔はしないと思う。
自分でやるとしても、こうするでしょ。
レンタルCDやDVDと同じで
自分で複製する→個人の範囲でOK
業者に依頼する→NG
ってだけだろ。何言ってんの???
> TJ
スキャンに関わるのは著作権(複製権)、電子書籍の発行は出版権であるという違いのことを指していますか? そうであれば、この記事ではあえて区別していません。法律談義をするのであれば両者の区別は重要ですが、今回の話においてはどちらも出版社の法務部門がクリアするという点で区別する必要はないからです。「スキャン代行サービス」をするのであれば複製権、「電子書籍交換サービス」をするのであれば出版権を取得すればいいだけですよね。
> toic
(出版社でなく)作家に「自炊代行業を営んではどうか」と提案するのは現実的ではないと思いますが。
個人的には、今回の質問状に名を連ねている作家の作品は今後買わないつもりです。「もやしもん」が読めないのは残念ですけど。
> johan
DRMをかけていない電子書籍を販売している出版社はたくさんありますが、ご存じないのでしょうか? DRMをかけないと商売にならないと思い込まない方が良いと思いますよ。
> nobio
そこは私の提案部分ですから、私の主張ですが。作家の権利を最大限確保した上で、読者のニーズを満たせるビジネスモデルを提案しているだけです。質問状とは関係ありません。
ちなみにあなたも「(問題は)自炊された電子複製が無許諾に大量に流通すること」という質問状には書かれていないことを主張されているようですが? リンク先の引用も、記者の私見のようですし。
> ?
名前くらい名乗りましょう。
自炊代行に関しては、スキャン済み書籍を廃棄する業者の場合は「複製にあたらない」という解釈もあります(単なる媒体変換に過ぎない)。原本をユーザに返却するサービスは明らかに「複製」なので、申開きはできないと(個人的に)思いますが、原本廃棄で「複製」を回避している場合には、作家・出版社の権利は及ばないことになります。どういう法解釈になるかは判例がないのでわかりませんが。
蛇足ですが、原本を廃棄することで中古市場への流出が防げるため、むしろ作家・出版社のメリットになるのではないかという指摘もありますね(もちろん未検証)。
仮に論点が「自炊された電子複製が無許諾に大量に流通すること」であれば自炊業者を止めることは特に意味がありませんよね。1部でもデジタルコピーがあればこの状況は発生します。個人が自炊する手段を奪うことは、むしろ自炊を諦めて無料でダウンロードを試みる人を増やす可能性すらあります。
この議論って、音楽業界がCCCDでカジュアルコピーを止めようと試みた状況と似てるんですよ。で、その結果は既に出ているわけです。結局、書籍購入に追加で自炊費用まで払って(利便性の高い)電子書籍が欲しいというニーズがあるから自炊業者なんて言うのが成り立っているのに、供給者がそこにアプローチできていない状況をどう考えるべきかって話で、せめて代替手段の提案くらいしてほしいなと思いますよ。
うん、代替案がないこと、読者の方を向いていないことの2点が反発を受けるポイントですよね。出版社と作家はそのことをわかっているのかしら。
この案を指して「何年も前からある陳腐なアイデアだ」と指摘する人がいるけど(数年前には買収可能な自炊代行業者は存在しなかったはずだが)、数年考えても代替案が出てこないあたりが致命的に何か欠けてますよね。
それは誰が言ってるのですか、と質問したら
あなたも質問状には書かれていないことを主張されているようですが?
と返答されて、なんとなくびっくりしました。