2011-10-14(金) [長年日記]
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復活の日 (ハルキ文庫)(小松 左京)
小松左京の逝去からンヶ月、いくつかの名作を読み返したいと考えるも、せっかく電子書籍化されたそれはいわゆる「買ってはいけない電子書籍」ばかりで話にならない*1。しょうがないからBookOffオンラインのお知らせメールに登録して*2、在庫が出たら即購入、BOOKSCAN経由で電子化してやっと読めた。なんという苦労。てかその苦労の半分くらいは自ら選んだものなのだけど(笑)。
書かれてからもうすぐ50年にもなる「古典」なのに、なんだかむしろ今読んだ方がいいんじゃないかとすら思える先見性にまず驚く。時代は東西冷戦のまっただ中、作者の視点も核戦争や細菌兵器による地球滅亡を描くことにあるからそこはさすがに昔話になってしまうが、未知の細菌との攻防をはじめとしたディテールが911や311を見てから描いたんじゃないかと思うほど迫真的なんである。
なにより、(ちょうどこれから冬に向かうこともあり)やはり今年も話題になるであろう新型インフルエンザの発生から流行、蔓延そして敗北までの過程が今の視点から見てもすごくリアル。ワクチンが効かないとか、症状の進み方が異常にはやいとか実にありそうだし、じわじわと「社会」が止まり始めてついには死体の処理まで追いつかなくなるあたりなど、ほんとに背筋が寒くなる。
そんな中、病院に診察待ちの長い行列ができて、それでも暴動はもちろん横入りをすることもなくひたすらじっと耐える日本人たちの姿が描かれてたりするわけ。うわー、この風景、ほんの半年前に見たじゃん! ほんとに40年以上前に書かれたのか、これ。他にも、人類にさらなる追い打ちをかける地震の規模がM9だったりして、その妙な数字の一致がまた恐怖に一枚リアリティを加えたりして。
あと面白かったのが、原子力が大活躍しているところ。というか原子力なくして人類は生き延びられなかったという状況設定なのだ。廃棄物について言及はあるものの、その扱いは(当時の空気を反映して)いささか楽観的すぎるものの、たしかにこの場面では原子力以外のエネルギー源では力不足なので、なにがなんでも原発廃止という今の流れを思い浮かべながら読むと実に味わい深い。
ところで「復活の日」というと原作よりも映画の方を思い浮かべてしまう。なにしろ角川映画がもっとも金をかけていた頃の作品だし、なんでもCGでごまかすわけにもいかない時代のものだから、ロケ地も大道具もとにかくホンモノ使ってて圧巻だった。冒頭、南氷洋にぽっかり潜水艦が浮かんでくるシーンはいまだに脳裏に浮かぶし、ボロをまとって誰だかわからないくらいに汚されまくった草刈正雄のギラギラした目は実に迫力があった。今回原作を読み返して、あのオリビア・ハッセー役の人は映画にしか登場しない、というか代わりに原作には色気もなにもないおばちゃんが出てくるのだったと気づいて唖然としたのだけど。サービス精神のかけらもないな、小松左京(笑)。映画も見返したいねぇ。
2011-10-13(木) [長年日記]
■ Dennis Ritchie死去
なんだかIT業界有名人の訃報が続いているが、個人的にはこれは悲しいなぁ。ちなみに第一報はGoogle+上のRob Pikeの投稿:
I just heard that, after a long illness, Dennis Ritchie (dmr) died at home this weekend. I have no more information.
I trust there are people here who will appreciate the reach of his contributions and mourn his passing appropriately.
He was a quiet and mostly private man, but he was also my friend, colleague, and collaborator, and the world has lost a truly great mind.
C言語の開発者であり、UNIXの開発者でもあるデニスはもう70歳、この先さらに新しい何かを産み出してくれるようなことは期待できないわけで、彼のいない未来から何かが欠けるわけではないだろう。ただ、彼の残したものに対する尊敬というか感謝……うん、そうだ、感謝だな。それはもう、計り知れないわけで。
(ポケコンのBASICを除けば)最初に学んだプログラミング言語はPascalで、次に覚えたのがCだった。Pascalは基礎を学ぶには良い言語だったが、「これならなんでも書ける!」という多くのプログラマが感じるある種の「全能感」はまさにC言語によって与えられた*1。その後はエディタのマクロやAWKを除けば、Javaに触れるようになるまでほとんどCだけを使っていた記憶がある。さすがにもう、C言語は役目を終えたと思うが、それでもインターネットがCで支えられている事実はまだしばらく揺るがないだろう。
ネット上の追悼メッセージをみていると、
free(dmr);
とか、
dmr = (void *)0;
とか、
printf("goodbye world\n");
とか、「おまえらわかってんなぁ」というのが目について、いっそう悲しみに拍車がかかるのである。
彼なくして、今日の世界はけっしてなかった。R.I.P.
*1 この全能感はのちにRubyによってさらにブーストされるわけだけど、それはまた別の話。
2011-10-12(水) [長年日記]
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WEB+DB PRESS 総集編 [Vol.1~60](森田 創)
なんでも編集後記でこの日記を引用したからという理由で献本していただいた。ありがとうございます。読んでみたら2006年の記事から、ほんの数行である(律儀だなぁ!):
執筆陣が豪勢だと評判なので、買ってみた。たしかに豪勢だ。ただ、昔の雑誌の「その道の大家を連れてきました」的な豪勢っぷりとちょっと違う気がする。編集者がちゃんとネットにアンテナを張って、いま「旬」な技術者を見つけてきている感じ。
これが32号のときの話で、この総集編にはそれを含む1号から60号までのすべての記事がPDF化されて入ってたったの2,700円。「1冊あたり云々……」という計算は誰かがやっていたから省くが、たいへんな大盤振る舞いには違いない。また、今回で3冊目になる総集編ながら、ちゃんと1号から再録してるところも真面目だよなー。
さて、上で引用したように、旬のソフトウェア技術者を見つけ出してきてその専門分野について語ってもらうというのがWEB+DBの本領なわけだが、あれから5年、読み手であるおれはWebアクセス解析の道へ踏み出し、開発の一線からはちょっと外れた位置にいるものの、60号においても執筆陣の何割かは知人・友人だったりする。この割合は5年前とさほど変わっていない(むしろ最近の方が増えている感じ)。
これが、相変わらず開発者コミュニティとのつながりを保ち続けているおれの成果なのか、それともWEB+DBが硬直化しているサインなのかはわからない(まぁたぶん前者)。ひとつ確実なのは、引き続き移り変わりの激しいWeb業界でありながらも、トップエンジニアたちがその流れに押し流されることなく先頭を走り続けているということと、それを押しのけるように若い力も台頭してきているということだ。
総集編の記念エッセイに名を連ねている11人の「Topエンジニア」たちは一部を除いてさすがにみなベテラン揃いだが、さらに5年後、この顔ぶれがどのように変わっているのかも楽しみである。
◆ Marlowe [映画化された頃に読んだきりなので、今読み返すと新しい発見というか 現実とのラップがあるのですね。]
◆ ただただし [まー、白状するとほっとんど覚えてなかったから新鮮ということなんだけどね(笑)。 なんで吉住が大陸横断する羽目になった..]