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ただのにっき


2012-05-06(日) [長年日記]

esrオープンソース三部作を読み返した

というわけで、ちゃんと読んだ。繰り返しになるがなんでこんなことをしてるかというと、「伽藍とバザール」からちょうど15年、esrが「伽藍」と「バザール」として対比させたものが何なのかすら忘れられつつある(!)という状況を受けてartonさんが現代的視点で解題してくれた一連の文書をちゃんと理解するために読み返したというわけだ。件の文書は以下にあるから読むといいと思うよ:

(本当は「ハロウィン文書」もEPUB化すべきなんだけど、表が多くてやる気がおきない。)


「伽藍とバザール」はよくできた現状分析という感じで、初めて読んだ時とそれほど印象に違いはない。でもまぁ、これは基本中の基本だよなぁ。これを読まずに(または読んでもなお)「伽藍」がクローズドソースで「バザール」がオープンソースだ的な解釈をするやつがいるようで困る。

個人的に(そうきわめて個人的に)面白かったのは「ノウアスフィアの開墾」で、最初に読んだときはあまりに「おれたちの」文化を赤裸々にしているさまにカチンときたものだが、さすがにこの歳になると客観視できるというか、実によくできた文化人類学的なフィールドワークレポートだね、これは。なんでカチンときたかというと当時は文化人類学者に観察される一方の未開人の立場だったのが、今では立派な文明人になったからだな(笑)。そんな読み手の個人的な変化が面白かった。

こいつの結末は慣習を慣習法へ……ということでこのハッカーたちの慣習を「法」として文書化しようという提言(?)になっているのだが、2012年の現代はというともっと愉快な方向にねじ曲がっていて、それはGitHubを中心としたソーシャルコーディングだ。ここでは「ノウアスフィア~」で描かれたハッカー文化がシステム化され、よりあからさまになっている。明文化よりシステム化の方がハッカーぽいし、これは正常進化だと思うね。相変わらずプロジェクトのフォークは起こらないが、コードのフォークは極めて簡単になっているとかね。

となるとクラウドベースのサービスが覇権を競っている現代に合わせて「魔法のおなべ」もアップデートが必要じゃないかと思うのだけど、終章の結論、最後までオープンにならないのはアプリケーションだというのは、わりと現状に合っているのかな。

で、アプリケーションが将来オープンになるかというとたぶんならなくて、なぜなら勝ち組サービスを保有するベンダーは十分に大きくなって、自社内に「バザール」的なエコシステムを構築できてしまうからだ。Googleしかり、Facebookしかり。彼らは優秀でモチベーションの高いハッカーを大勢雇って、社内におけるコードの所有権を曖昧にすることで、コードをオープンにすることなく効果的なバザール開発をしてしまっている。インフラやミドルウェアはまだしも、アプリケーションのコードまでわざわざインターネットに公開する必然性はない。ここにきて、「伽藍」が「クローズ」とイコールではないように、「バザール」は「オープン」とイコールではないよという話になるわけだ。面白い。やっぱり読み返してよかった。

Tags: oss ebook

esrオープンソース三部作のダウンロード数にみるEPUB普及状況

esrオープンソース三部作のEPUB/Mobi版公開ページ*1は、見ればわかるようにGitHub pagesを使っているのだけど、個々の電子書籍のURLはbit.lyで短縮したDropbox上のファイルなので、ダウンロード数がわかるようになっている。

で、ちょっと集計してみた。

[グラフ]esr三部作のダウンロード状況。伽藍とバザールは80:120、ノウアスフィアの開墾と魔法のおなべは50:80程度でEPUBの方が多い

実は公開直後はMobiダウンロード数の方が伸びていて、「ああ、やっぱり技術者のKindle普及率は高いしなー」と考えていたのだが、一夜明けてみたらEPUBが逆転してやや優勢という状況に。さらに結城さんが紹介してくれたあたりからEPUBがさらに伸びて、いまではほぼ倍の差がついている。そりゃそうだ、Kindleよりスマートフォンやタブレットの方がよっぽど普及してんじゃん*2

というわけで、現状では技術者向けならEPUBファーストでおk。一般向けなら言うまでもない。これがAmazon電子書籍の日本市場参入でどう変わるか、楽しみである。

Tags: ebook

*1 今日、いくつかのバグを潰した最新版に入れ替えてあります。

*2 そういえば結城さんだってiPadユーザなのになんでKindle?

本日のツッコミ(全2件) [ツッコミを入れる]

結城浩 [アクセスに貢献(?)できてうれしいです。 > そういえば結城さんだってiPadユーザなのになんでKindle? ..]

ただただし [なるほどw 間違いをみつけたらpull requestくださいね!]


2012-05-05(土) [長年日記]

写真展「Dear それぞれの」へ行ってきた

知人の志摩羽月さんが仲間たちと写真展を開いているというので、行ってきた。「Dear それぞれの」。

普段はアフリカに行って野生動物を撮っているような人なので、きっとアフリカを題材にした写真なんだろうと思い込んでいたら、なんと北京の風景だったという。まるでモノクロかと思うほど彩度を落としたプリントで、北京の(というかおそらく現在の中国の都会が総じてもっている)けぶったような空気感が出ていてよかった。

志摩さんの作品もそうだけど、物(オブジェクト)でなく光を撮っているという感じが出ている作品はいいね。そういう意味では、おなじ写真展にあった矢島満夜さんの作品も好み。

スーパームーンだというので

[写真]今日のスーパームーン

今夜はスーパームーンだというので(満月は明日らしいが)、また撮ってみた。前回よりはくっきりした気もするが、やっぱイマイチか。手ぶれかなぁ。シャッター速度を1/500まで上げてみてもたいして変わんないけど。というかいいかげん小さくてもいいからまともな三脚を買うべきだよな。ゴリラポッドじゃなく。この写真はゴリラポッドじゃなくてベランダの手すり固定だけど。

普段の満月よりも明るさ30%増しだそうだが、前回の満月なんて一ヶ月も前なんだから、人間そんな違いを思い出せるわけもなく、本当にスーパーなのかは判然としないのであった。ちなみに距離は36万kmまで近づいているそうで、静止衛星のちょうど10倍というキリの良さにむしろ感動したりしてね。いや「10倍」という数字にもたいして意味はないのだけど。

Tags: photo

2012-05-04(金) [長年日記]

いま集合的無意識を、 (ハヤカワ文庫JA)(神林 長平)

相変わらずの神林節で面白かった。以上。……というのは(これを読み返す未来の自分に対して)あんまりか。

アフタヌーンで「勇者ヴォグ・ランバ」というちょっと神林世界っぽい骨太なSF作品が連載されていて毎月楽しみにしているんだけど、「意識」を喪失するということは想像力を失うことを意味するという本書の表題作で行われる議論と似通っていて、今後の「勇者ヴォグ・ランバ」の読み方に何かを付け足してもらったようで嬉しかった。なにかと「伊藤計劃」というキーワードとともに語られがちな作品だし、そのことはもちろん重要なんだけど、ぜんぜん別の楽しみもできるってことで。あと、飛浩隆の解説が補完的な意味で良い。

冒頭の「ぼくの、マシン」も含め、ネットワークに対する嫌悪というか不快感が提示される作品が目立つのだけど、ひごろからネットの向こうに芽生えつつある集合意識/無意識の存在が面白くてしょうがないネットジャンキーの自分としては、この感覚とは相容れない。まぁたしかにスタンドアロンのコンピュータも楽しかったし、作者の言うこともわからんではないけど、ネットにつながってからの楽しさはその比じゃないしなぁ。もちろんそれが年寄りの懐古趣味ではない、と確信するくらいには神林長平を信じているので、意見の相違は乗り越えて楽しんで読んだわけだが。

いま集合的無意識を、 (ハヤカワ文庫JA)
神林 長平
早川書房
¥682

もちろん、以下を読んでいないと表題作は理解できない:

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)
伊藤 計劃
早川書房
¥1

9784150310196

Tags: book

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