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ただのにっき


2011-08-25(木) [長年日記]

「福島第一原子力発電所におけるロボットオペレータの手記」がめちゃめちゃ面白い

久々に震災ネタ。ずいぶん前からあったらしいのだけど、ぜんぜんアンテナにひっかからずにいた「福島第一原子力発電所におけるロボットオペレータの手記」が、読んでみたらすごかった。これはもう、全国民必読ですよ。

2011-08-29追記: 下記リンクは現在消去されています。まぁ「ロボットオペレータの手記」あたりでググればいくらでもミラーが見つかるのでこのままにしておきますが:

2011-08-30追記: 当たり障りのない感じのところ(笑)にコピーを見つけたので、こちらを貼っておきます:

最前線で働く人々の生の声というだけでも貴重だが、この手記は伝わってくるプロ意識の高さが実に素晴らしい。うわさ話や一部報道では、現地作業員、とくに東電社員以外のいわゆる「下請け」の人々が劣悪な環境におかれているという情報が漏れ伝わってきているし、実際そういう面もあるのだろう。が、ここに書かれているのは自社の技術に誇りを持ち、一刻を争う現場で己の持つ技を出し惜しみしないで働く、士気がきわめて高いプロフェッショナルの仕事ぶりだ。過酷な労働環境に対する多少の愚痴はあるものの、なにより楽しそうに働いているのが実に印象的。福島第一に対する印象が180度変わったよ。

で、リンク先を見ればわかるように、このテキストはオリジナルではない。オリジナルのブログは閉鎖されていて、ネットの奥底からサルベージされたのがコレ。さらに英訳もされているそうで、そのため最近になって再度注目されたということらしい(TechCrunchの紹介記事。記事中からリンクされている英語版の方がテキストも写真も豊富)。

さて、元ブログ閉鎖の理由は明らかになっていないようなので、以下はすべて想像になる。が、普通に考えて「上からの圧力」によるものだと考えて間違いなかろう。杓子定規に解釈すれば、業務上知り得た秘密を許可なく公開したため咎められたと考えられる。なにしろ内部資料とおぼしきペーパーを始めとした多数の写真やら、代休をとってるはずなのに出勤したとか勤怠管理上まずい話まで、たしかにこのまま放置しておくのは常識的に考えてまずい。もっとも、本当の理由は東電社員の(とりわけ本店の)使えなさっぷりや高飛車な態度が描写されているせいかも知れないけど(笑)。

でもねぇ。こういう情報の存在を知って「これは広報のチャンス!」と考えなかったとしたら、東電の広報部隊はボンクラ集団だよな。いまや日本はおろか世界を敵に回している東京電力にとって、こういう情報は上手に使えば味方を増やす千載一遇のチャンスなはず。むしろこのまま放置するか軽いチェックをかける程度で野放しにして、自由に書かせてしまったらいいんだよ。今回のように逆に情報を遮断してしまい、おまけに手の届かないところに無数のコピーを作られるようなことになれば、東電にとって都合の悪い情報が存在することを匂わせて、かえって「東電の隠蔽体質がまた……」と疑心暗鬼を募らせてしまう。結果としてまた敵を増やす。

先日のまんべくん事件もそうだけど、アンチの口を封じるためと称して一緒に大勢の味方を切り捨ててしまう下手な情報戦略が最近は多いと感じる。移ろいやすいネット時代においては、「敵に渡す情報を絞る」のではなく「味方に渡す情報を増やす」戦略の方が適切だと思うのだけど。まぁ、そういう面も含めて東電は旧弊な会社ということなのか。

いずれにせよ、このロボットオペーレータ氏がかなり重い処分を受けただろうことは想像に難くない。現場への出入りを制限された可能性も高い。優秀なオペーレータを失って、現場の士気もさぞかし低下したことと思う。そう考えると、ブログの閉鎖・オペーレータの処分で一番割を食ったのは、福島第一の作業効率悪化にともなうリスクを抱え込むことになった我々国民かも知れないね(←ほら敵が増えた)。

ところでこの手の話で、あればぜひ読みたいのは、(個人的にひそかに「コスモクリーナー」と呼んでいる)汚染水除去装置の運用日誌である。ロボットと同様、世界で初めて実戦投入する機械のこと、トラブルがたくさん出るのはあたりまえ。それを現場の創意工夫でどのように切り抜けていくのか、きっと面白いぜぇ? たぶん「アポロ13」ばりの話になるはず。

関連する日記: 2011-12-29(木)
本日のツッコミ(全3件) [ツッコミを入れる]

残念な東電 [前も検査データ捏造のときに、EiFYE原子力発電所つぶしたし。お役所の極み。]

ちょっと関わってた人 [けどその人の話,その人の想像で書かれている部分も多くて,嘘もたくさん含まれててげんなりして見なくなりました.]

ただただし [↑そんな書き方じゃ、たんなるアンチと区別がつかない……とは考えないのかなぁ。]


2011-08-23(火) [長年日記]

「DevLOVE HangarFlight Experiences」を読んで考えた「良い技術系エッセイ」のパターン

先日購入したDevLOVE HangarFlight Experiences」、まだβ版ということなのでざっと流し読み。正式版になったらちゃんと読む(かも)。

DevLOVE HangarFlight Experiences DevLOVE HangarFlight Experiences
DevLOVE Pub
760円+税

ソフトウェア系技術者によるエッセイ集という体裁なんだけど、DevLOVEの活動からのスピンアウトということもあって、彼らが運営しているイベントを基盤に置いた文章が、良くも悪くも雑多な感じで詰め込まれている。冒頭の数本がちょっとポエミーな感じだったので「うわー、大丈夫かな」と心配になったりしたが、中盤以降はわりとしっかりした文章も増えてきて安心した。

著者順に並んでいるせいかテーマもランダムで、頭から読むとかなり混乱する。文体も(これは悪い意味で)ブログ風味で、「書籍」の読者を想定していないっぽいものも多いけど、正式リリースに向けてこれらは整理されるのだろう(と期待しているのでβの状態で感想を書いているわけだが)。

で、通して読んでみて、上手い人の技術系エッセイにはパターンがあるなぁ、と思った。例外はあるけどこんな感じのスタイルだと読後に納得感が高い:

タイトル - 単独で意味をなす

タイトルで失敗する書き手は多い。タイトルは読み手にとって最初の「手がかり」なのだから、何が書いてあるのかそれだけで独立して意味をなすようにする。本文まで読まないと何が書いてあるのか推測できないのは(よほどキャッチーなタイトルでない限り)失敗だ。

導入 - 「私」の課題

自分が抱えている(いた)課題や、それに出会った経緯の説明で始める。ここは読者を選別するフェーズだ。読者はエッセイのテーマを推し量り、自分が求めている話かどうか、最後まで読む価値があるかどうかを判断する。同じ課題を抱えている、興味を持っているテーマであれば続きを読もうという気になるものだ。

ここで気をつけたいのは「私(書き手)」を主語にすること。「あなた(読者)」に対する呼びかけスタイルは高等技術なので避けたほうが良い。知らない人から突然「あなた××ではありませんか?」と呼びかけられたら普通は引く。導入はあくまで「自分」を主体にして話す。そもそも「HangarFlight」というのはそういうものだと思うのだが、ついつい読者を仲間に引き込もうという誘惑に負ける書き手は多い(そして失敗する)。

本論 - 私が感じたこと、考えたこと、行動したこと

実際に自分の体験をベースに、実際にやったことを書く。導入抜きでいきなりここから書き始める書き手がいるが、メソッドを未定義のままで呼び出してmethod_missingでトラップするようなものなのでやめた方がいい。

本題なのだから基本的には好きなように書けばいい。読者は導入を読んで最後まで付き合うきになっているのだから、脱線しないで自分の言葉で語れば良い。逆に「自分」を排除して抽象的な一般論にしてしまうのも良くない。それは「まとめ」にとっておく。読み手の多くは現実の事例のない一般論は信用しない。

まとめ - 一般化

DevLOVEのようなイベントで参加者同士の対話があるなら、つまり本来の「HangarFlight」では、本論で終わってもその後の展開は参加者同士で進められるが、書籍ではそうはいかない。自分の体験を語った後は、そこから導出される法則やTIPSを一般化して誰にでも応用できるようにまとめると、エッセイとしてのシメはカンペキである。これがないと、読み手によっては「だから何?」という置いてけぼり感を抱くことになる。


もちろん、経験豊富なエッセイストの手になる文章はこんな定石を踏まずとも読者を引き込んで熱い読後感を残すのだが、そうでない大多数の人は、まずはこういうパターンに沿って書くように心がければ、読み手も書き手も得をすると思う。

というわけで、「DevLOVE HangarFlight Experiences」が良い書籍になることを願って。

Tags: ebook book

2011-08-22(月) [長年日記]

デカルトの密室 (新潮文庫)(秀明, 瀬名)

発刊当初「傑作だ」という(一部の)評価を聞きつけて買いに行き、間違って「ハル」を読んでしまったという失態からはや6年、やっと読んだという。遅いにもほどがある。

ヒューマノイドロボットとAI(人工知能)に関する(執筆当時の)膨大な知識・考察を、表題にあるデカルトにからめながらぶち込んで、自意識とは何かを問う、ターゲットにした分野をきちんと勉強してから小説にとりくむ瀬名秀明らしい意欲作。ミステリータッチの導入から、ネットに放たれた人工知能や一般販売されるヒューマノイドロボットたちが社会を変容しはじめる中盤、そして哲学的でメタな展開をみせる終盤まで、盛りだくさんでお腹いっぱいなSFだ。

が、やっぱりおれ、瀬名秀明は合わないなぁ、と(笑)。なるほど、主題に関してはすごくよく調べてあるし、デカルトを読んだこともないおれには自意識に関する考察についてケチをつける能力もない。ただ、その他の部分がおざなりというか、フィクションとして読者に「納得」を提供できてないと思うんだよね。

例えば冒頭、チューリングテストを競い合う「チューリング・プライズ」という学術系の競技会が開かれるのだが、作品中に登場するヒューマノイドロボットはどうみてもチューリングテストをパスできるだけの能力を持っていたり。フレーム問題を(ほとんど)克服しているようなロボットが登場する未来に、チューリングテストが成立しているというアンバランス。もちろん両者は別の技術だし、それぞれの進歩があると思うが、チューリング・プライズそのものが単なるその後の展開のための装置にすぎないように見える(「逆チューリングテスト」は面白いアイデアだと思ったけど)。

他にも、「フランシーヌ・プログラム」の蔓延に対してセキュリティ面での対策がまったくされていなかったり、殺人事件までおこしたロボットという存在に対する拒否反応が存在しないなど、実社会でこういう展開はないだろうというツッコミ箇所が多数あるせいで、しらけてしまう。ストーリーの都合上リアリティは無視するというなら、そういうシグナルを読者に提供すべきだよな。「ある日突然、血の繋がらない妹がおれの部屋に転がり込んできた」的なシグナルをさ。

デカルトの密室 (新潮文庫)
秀明, 瀬名
新潮社
¥45

Tags: book

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