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ただのにっき


2011-08-23(火) [長年日記]

「DevLOVE HangarFlight Experiences」を読んで考えた「良い技術系エッセイ」のパターン

先日購入したDevLOVE HangarFlight Experiences」、まだβ版ということなのでざっと流し読み。正式版になったらちゃんと読む(かも)。

DevLOVE HangarFlight Experiences DevLOVE HangarFlight Experiences
DevLOVE Pub
760円+税

ソフトウェア系技術者によるエッセイ集という体裁なんだけど、DevLOVEの活動からのスピンアウトということもあって、彼らが運営しているイベントを基盤に置いた文章が、良くも悪くも雑多な感じで詰め込まれている。冒頭の数本がちょっとポエミーな感じだったので「うわー、大丈夫かな」と心配になったりしたが、中盤以降はわりとしっかりした文章も増えてきて安心した。

著者順に並んでいるせいかテーマもランダムで、頭から読むとかなり混乱する。文体も(これは悪い意味で)ブログ風味で、「書籍」の読者を想定していないっぽいものも多いけど、正式リリースに向けてこれらは整理されるのだろう(と期待しているのでβの状態で感想を書いているわけだが)。

で、通して読んでみて、上手い人の技術系エッセイにはパターンがあるなぁ、と思った。例外はあるけどこんな感じのスタイルだと読後に納得感が高い:

タイトル - 単独で意味をなす

タイトルで失敗する書き手は多い。タイトルは読み手にとって最初の「手がかり」なのだから、何が書いてあるのかそれだけで独立して意味をなすようにする。本文まで読まないと何が書いてあるのか推測できないのは(よほどキャッチーなタイトルでない限り)失敗だ。

導入 - 「私」の課題

自分が抱えている(いた)課題や、それに出会った経緯の説明で始める。ここは読者を選別するフェーズだ。読者はエッセイのテーマを推し量り、自分が求めている話かどうか、最後まで読む価値があるかどうかを判断する。同じ課題を抱えている、興味を持っているテーマであれば続きを読もうという気になるものだ。

ここで気をつけたいのは「私(書き手)」を主語にすること。「あなた(読者)」に対する呼びかけスタイルは高等技術なので避けたほうが良い。知らない人から突然「あなた××ではありませんか?」と呼びかけられたら普通は引く。導入はあくまで「自分」を主体にして話す。そもそも「HangarFlight」というのはそういうものだと思うのだが、ついつい読者を仲間に引き込もうという誘惑に負ける書き手は多い(そして失敗する)。

本論 - 私が感じたこと、考えたこと、行動したこと

実際に自分の体験をベースに、実際にやったことを書く。導入抜きでいきなりここから書き始める書き手がいるが、メソッドを未定義のままで呼び出してmethod_missingでトラップするようなものなのでやめた方がいい。

本題なのだから基本的には好きなように書けばいい。読者は導入を読んで最後まで付き合うきになっているのだから、脱線しないで自分の言葉で語れば良い。逆に「自分」を排除して抽象的な一般論にしてしまうのも良くない。それは「まとめ」にとっておく。読み手の多くは現実の事例のない一般論は信用しない。

まとめ - 一般化

DevLOVEのようなイベントで参加者同士の対話があるなら、つまり本来の「HangarFlight」では、本論で終わってもその後の展開は参加者同士で進められるが、書籍ではそうはいかない。自分の体験を語った後は、そこから導出される法則やTIPSを一般化して誰にでも応用できるようにまとめると、エッセイとしてのシメはカンペキである。これがないと、読み手によっては「だから何?」という置いてけぼり感を抱くことになる。


もちろん、経験豊富なエッセイストの手になる文章はこんな定石を踏まずとも読者を引き込んで熱い読後感を残すのだが、そうでない大多数の人は、まずはこういうパターンに沿って書くように心がければ、読み手も書き手も得をすると思う。

というわけで、「DevLOVE HangarFlight Experiences」が良い書籍になることを願って。

Tags: ebook book

2011-08-22(月) [長年日記]

デカルトの密室 (新潮文庫)(秀明, 瀬名)

発刊当初「傑作だ」という(一部の)評価を聞きつけて買いに行き、間違って「ハル」を読んでしまったという失態からはや6年、やっと読んだという。遅いにもほどがある。

ヒューマノイドロボットとAI(人工知能)に関する(執筆当時の)膨大な知識・考察を、表題にあるデカルトにからめながらぶち込んで、自意識とは何かを問う、ターゲットにした分野をきちんと勉強してから小説にとりくむ瀬名秀明らしい意欲作。ミステリータッチの導入から、ネットに放たれた人工知能や一般販売されるヒューマノイドロボットたちが社会を変容しはじめる中盤、そして哲学的でメタな展開をみせる終盤まで、盛りだくさんでお腹いっぱいなSFだ。

が、やっぱりおれ、瀬名秀明は合わないなぁ、と(笑)。なるほど、主題に関してはすごくよく調べてあるし、デカルトを読んだこともないおれには自意識に関する考察についてケチをつける能力もない。ただ、その他の部分がおざなりというか、フィクションとして読者に「納得」を提供できてないと思うんだよね。

例えば冒頭、チューリングテストを競い合う「チューリング・プライズ」という学術系の競技会が開かれるのだが、作品中に登場するヒューマノイドロボットはどうみてもチューリングテストをパスできるだけの能力を持っていたり。フレーム問題を(ほとんど)克服しているようなロボットが登場する未来に、チューリングテストが成立しているというアンバランス。もちろん両者は別の技術だし、それぞれの進歩があると思うが、チューリング・プライズそのものが単なるその後の展開のための装置にすぎないように見える(「逆チューリングテスト」は面白いアイデアだと思ったけど)。

他にも、「フランシーヌ・プログラム」の蔓延に対してセキュリティ面での対策がまったくされていなかったり、殺人事件までおこしたロボットという存在に対する拒否反応が存在しないなど、実社会でこういう展開はないだろうというツッコミ箇所が多数あるせいで、しらけてしまう。ストーリーの都合上リアリティは無視するというなら、そういうシグナルを読者に提供すべきだよな。「ある日突然、血の繋がらない妹がおれの部屋に転がり込んできた」的なシグナルをさ。

デカルトの密室 (新潮文庫)
秀明, 瀬名
新潮社
¥45

Tags: book

2011-08-21(日) [長年日記]

夏休み一泊旅行(2) - 臼田宇宙空間観測所

[写真]朝食。中央ははちのこ

続き。まるやの朝食にはさりげなく「はちのこ」が混じっていたりして、なかなか油断がならないのだった。美味しいけど、ちょっとクセがあるよね。

10時ギリギリまで粘ってからチェックアウトし、近所にある塩羊羹で有名な店へ。朝から大混雑ですごい人気店。その後、やはり近所の諏訪大社下社秋宮へ。10年ぶりくらい? ここのこま犬、逞しくて立派なブロンズ製なんだけど、どこも同じデザインなのだよねぇ。各社で違ったデザインにすればいいのに。

[写真]諏訪大社上社本宮にいる小型のこま犬

近くの閑散とした商店街をぶらついたり、酒蔵を2件ほど回って試飲(かみさんが)したりしたあと、こんどは上社へ。ここは参道が折れ曲がっていて妙な構造になっているのが面白いです。写真はメインのじゃなくて、ちょっと奥まったところにいる小さなこま犬。デザインはこっちのがカワイイ。

[写真]バラクライングリッシュガーデンで売っていた猫の置物(の集団)

雨がやまないのであたりをうろつくのはやめ、蓼科高原にある美味しいと評判のそば屋へ向かうが、すごい田舎にあるのにめちゃめちゃ行列しててびっくり。すごすごと引き返して近くにあるバラクライングリッシュガーデンへ。ちなみに「バラクラ」とは「薔薇のある暮らし」の略だそうです。その名のとおりのイングリッシュガーデンで、花撮り放題。バラクラの確立した家元制度のすごさについて書くにはこの日記は狭すぎる(ので興味のある人は調べてみるといいです)。写真はバラクラで売っていた売っていた猫の置物(の集団)。数に頼むとなんでも不気味になる。

[写真]臼田64m

さて、本日最後にして(おれ的)メインイベントは、もちろん臼田宇宙空間観測所。前日、野辺山の公開に行った宇宙、クラスタの面々も、今日は臼田に向かっているのだけど、Twitterで入ってくる報告がみんな「霧がすごくて何も見えない」的なものだったので、半ばあきらめていたのだけれど、どっちにしろ関越から帰ったほうが混まなさそうだったので臼田は通り道みたいなもんだ。ちなみにウチのカーナビが麦草峠経由ではなく大河原峠経由のルートを推奨してきたので感心した。(ダートを厭わなければ)蓼科から臼田へのルートとしてはこれがベストチョイスである。これで天気が良ければ標高2000mからの絶景が見られたんだけどね……。

で、ようやく臼田に付いたのが16時直前、つまり見学時間終了間際。受付では「もうダメー」って言われてすごすごと門の外に出たが、霧は晴れてちゃんと全景が見える状態でよかった。宇宙クラスタの報告によれば、臼田で講演を聞いて寄る人がいることを予測して*1、本来日曜はホームポジションにあるアンテナをこちら向きに倒しておいてくれたらしい。へー、JAXAもずいぶんサービス精神を身につけてきたじゃないの! これで天気が良ければ!(悪天候はJAXAのせいではありません)

*1 佐久には今、はやぶさのカプセルが来ているのでそれに合わせたイベントがあった。


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