2008-05-24(土) [長年日記]
■ 9784150116262
超大企業の神のごとき役員と、衣食住は保障されてるけど奴隷に等しい従業員に二分化された、環境破壊がとことん進んだ地球。役員連中はうなるほどの金と数百年の寿命を持ちながら、危険な場所に赴いてその様子をネットに流す「ウォー・サーフ」という遊びに夢中。
そのウォー・サーフがメインのアクション物かと思いきや、実際のウォー・サーフ場面は上巻の半分までしか出てこない。残りは、やたらと従業員クラスを見下しまくる鼻持ちならない主人公の老人が、捕虜になった宇宙工場で自分探しをする話。
今まで自分が想像したこともない世界を目の当たりにすることで、だんだん偏見をなくしてまっとうな人間になる様子を描くのが目的なんだろうけど、なんだかその描写が薄っぺらくて、説得力に欠けるんだよなぁ。中途半端に道徳的な気がするのは、主人公の動機がすべて女がらみだからか。
下巻の後半から再び物語が動き出して、SFっぽい変革も現れるんだけど、わざとらしい自己犠牲で終わるストーリーには、ちょっと白けた。ジュブナイルに仕立て直したらいいんじゃね?
2008-05-23(金) [長年日記]
■ 『今日の早川さん 2』の限定版を買った
かみさんに誘われてふらふらと入ったリアル本屋で残り3冊になっていて、「ま、Amazonで買うからいいさ」と思ったが、ふと不安感に襲われたのでケータイで検索してみたらもう売り切れていたもんだから、慌てて買った。リアル本屋で本を買うなんて、久しぶりだ。というか、自分の第六感に喝采。
今回、やたらと早川さんのエロい表情が多かったような気がする。でもおれは岩波さん派だけどな!
ところで、本文(?)中でこんなこと→を言われている有川浩だが、今日の日記で:
自由業ですが、それでもたまに名刺を作ることがあります。
肩書きをいつも悩んで結局抜いたり税務署の登録と合わせて「文筆業」にしたりしていたのですが、この度「ライトノベル作家」にしてみました。
ということで、ハードカバーばかり出していてもラノベ作家らしい。おれとしては黒々としたゴシック体で「恋愛小説家」って入れて欲しかったぜ。
9784152089243
9784152089236
2008-05-20(火) [長年日記]
■ ISASメールマガジンの海老沢研のエッセイがすごくイイ!!
先週配信されたメルマガで読んで、いたく感動したんだけど、やっとWebでも公開されたので紹介。
僕はユーラシア大陸の真ん中で遭難していた。非常用マニュアルに従ってGPSで地球上の位置を確認し、イリジウム携帯でオフィシャルの緊急番号を呼び出す。「ゼッケン39番、423kmを過ぎたところでミスコースしました。北緯50度09.803分、東経93度10.325分の地点で砂に埋まってスタックしています。これ以上は走行不可能です。救助を要請します。」
JAXAの(というかISASの)海老沢教授は、最近バイクでラリーに参加するようになった天文学者として一部では有名らしい(この記事読むまで知らなかった)。バイク乗りならビビビっと来るこんな出だしのエッセイが、天の川銀河の謎に迫るX線天文学の話につながるのだ。そのパースペクティブは鳥肌モンだ。叙情的な書き方だが、最先端の科学のシビアさと楽しさが存分に伝わってくる名文だ。
それにしても文才あるなぁ、この人。おれと同世代だ。一般向けの啓蒙書を書けばいいのに。
ググっていたら本人によるRally Mongolia 2008レポートを見つけたので、あとで読む。これって確か、何年か前にカブで参加した人がいたあの大会だよなぁ?
■ 9784152088802
クラークの第三法則のせいか、魔法・魔術を科学的に説明できる世界を描きたがるSF作家はあとをたたない。この作品も、多宇宙解釈と高等数学で魔術が理解され、ある程度コントロール可能になっている世界が舞台。主人公は元IT技術者(というかシステム管理者)で、官僚主義に塗り固められた(ハードボイルドではない)スパイ小説の体裁という、ようするに「ありがちな設定×ありがちな設定」な小説だ。
いや、面白かったよ、小説としては。まったく予備知識なしで買ったもんだから、長編一本だと思って読んでいたら、残りページがずいぶんある状態で結末になってしまい(もうひと盛り上がりあると思っていたのに!)、後ろに中編が一本付いていることをあとで知ったとか、そういう些細なガックリを除けば、まぁまぁ。中編の「コンクリート・ジャングル」の方がまとまりがあって面白かったかな。
でもさぁ、これを「海外SFノヴェルズ」ブランドで出す意味は? FTかNV文庫でいいじゃん。作者は魔術の背景にある理論について真面目に説明する気は毛頭ないらしいから、SF的な面白さはほとんどない。ホラーかと言われれば、ラヴクラフト用語が多用されてはいるものの、怖い場面やグロい場面もあんまりないし。海外SFノヴェルズを買うときは、がっつり濃ゆいSF成分を求めてるのに、これはないよなぁ。
あと序文! 小説の序文ほど興を削ぐものはないのに、なんでこんなもんをつけるんだろう。理解しがたい。