2012-01-12(木) [長年日記]
■ 情報共有の未来 (yomoyomo)
はてなダイアリーでは単著のない人は肩身が狭いそうで*1、そんな単著童貞からyomoyomoさんもこれで卒業である。おめでとう!
今はなき「WIRED VISION」に掲載されていたブログ「情報共有の未来」(現在はアーカイブで公開中*2)をまとめた、いわゆるブログ本という扱いになる。期間は2007年から2011年の足かけ5年。インターネットにおける情報のありようを時事ネタをからめつつ語るというスタイルなので、とうぜん2012年現在からみると古びている。だからこの話を聞いたときは書籍にまとめるには向かないのではないかと思ったが、ほとんど各章すべてに現時点からの振り返りとなる「あとがき」が付けられて、これがけっこう面白い。もちろんこれはアーカイブでは読めない書籍だけの特典である。
さて、本書のキーワードは文中であえて日本語訳を当てはめていない「generative」と「sustainable」のふたつだろうなと考えながら読んでいたら、「おわりに」でまさにそう書いてあったのだった。このふたつが重要だというのは個人的にもおおいに同意。わりと最初の方から登場するgenerativeに対し、sustainableはほぼ終章近くになってからようやく登場なのだけど、各章の「あとがき」で紹介したサービスなどがその後ちゃんと継続しているかどうかを振り返ることになっているので、結果的に全編にわたって「sustainableさ」が検証されているという構造。面白い。
全体をとおして読むと、この5年(というかもっと遡って10年くらい)は、「本質的に自由になりたがる『情報』というもの」に、共有をとおして自由を与える勢力と、枷をはめて行動を制限したがる勢力のせめぎあいだったのだなぁとわかる。そういう意味で「情報共有の未来」というタイトルはなかなか深い。両勢力はときに一方がときに他方が陣地を獲得しつつ、現在は制限サイドがやや優勢になりつつあるという状態で、本書のトーンもやや暗い感じで終わっているのだけど、個人的には「共有」というプロセスを経て初めて単なるビット列が「情報」となるものだと考えているので、人類が情報を我が物とする未来にはかならず「共有」サイドが勝利をおさめていると信じたい。
ところで「yomoyomo文体」は文中に多数のリンクをはることで多様な情報を紹介しつつ、そこから浮かびがる新たな視点を提示するところにその面白さがあるのだけど*3、結果としてKindleを常時WiFi接続しながら読むハメになった。従来の「読書」とはだいぶ趣の異なる体験であり、正直なところ少し疲れたかな。ただ、巷にあふれる海外情報をひとつだけ、抄訳とスクリーンショットで紹介してリンクは文末に申し訳程度にはるようなブログに比べ、本書はまさに「ストロングスタイル」のブログと言えよう。読者のひとりとして、「諸君、これがブログというものだよ」とドヤ顔のひとつもしたくなるというものである。って、おれが威張ってもしょうがないのだが。
とまぁそんなことを、ブログを始めることををかたくなに拒否していたブログブームの頃のyomoyomoさんを思い出しつつ読んでいたのであった。