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ただのにっき


2007-05-30(水) [長年日記]

古紙回収場で貴重な本を見つけたらどうするか

「貴重」でなくても「懐かしい」程度でもいいけど。

水曜は古紙回収の日なので、出社前に雑誌の束を集積所にどん、と出した。そのとき、ちら、と横を見たら、新井素子の(初期の)コバルト文庫作品が一揃い、ひもで縛って出されていた。「うおっ、懐かしい」と思わず拾って持ち帰りそうになったが、本当に読むのかと自問して抑えた(ここで某makiさんが片眉をピクっと動かす)。まぁ、遅刻しそうだったし。まぁ、今は新装版が買えるようだし、そんなに希少でもないか。

こんな風に、捨ててあった古書を回収したことは2、3度あるけど、最近は(置く場所がないとか)いろいろ理由をつけて躊躇してばかりだなぁ。「そんなことではいかん!」なのか「大人としてふつーでしょ」なのか、悩ましいところだ。


2007-05-28(月) [長年日記]

原作どおりならいいってもんじゃない

今年はお気に入りの小説やマンガが映像化されることが多くて、忙しい合間を縫って録りためたビデオを少しずつ消化している。そうはいっても、なかなか満足のいく映像化作品にはお目にかかれない。

『おおきく振りかぶって』のアニメは、あまりに忠実に原作どおりで、いくらなんでもそれはないだろう、という感じ。セリフから何からそのままなので、まったく新鮮味がない。そりゃぁ、原作どおりじゃないというだけで怒り出すしょうもないファンが多いのは知っているが、だからといってこれは工夫がなさ過ぎるというものではないか。

一方『エマ』の第二部は、いきなり原作からずいぶん遠いところから始まってしまい、早々についていけなくなった。逆の意味でやりすぎだ。やはりこういうものは、ほどよいアレンジを施した、バランスの良い映像化を期待したいところ。

その点、こないだ最終回を迎えた『ロケットガール』の脚本なんかは文庫2冊分の原作を手際よくまとめていたし、演出面では原作では描けなかったところを上手に絵で見せていて素晴らしい出来だった。これでショボいCGがなんとかなっていれば……。

って、アニメばかりだな。でもアニメなら、登場人物が全員メガネ装着という『電脳コイル』にとどめを刺すよね。って、これは原作付きじゃないか。


で(本題)、この夏にはいよいよ『夕凪の街 桜の国』の映画が公開されるわけで、期待するなという方が無理なわけだ。特別試写会の案内があったのでいちおう申し込んだんだけど、

  • なぜか東京だけブロガー試写会で、
  • でもブログのURLが必須じゃないという。
  • 平日なのに時刻が書いてないから、当選しても行けるかどうかわからんし。
  • そういえばうちの日記にもわかってないコメントを残してる……

どんだけビミョーな広告代理店を雇ってるんだよ! と、すんごく心配になる。まぁ、広告代理店がビミョーなことと、作品の出来には関係がないしね。

でも、監督インタビュー(2)では「桜の国」が「街」でなく「国」である理由について延々考えたとか言ってたり(これはこの作品の中では一番わかりやすいメッセージのひとつでは?)、いっぽうインタビュー(3)では4回読んだだけですべてを理解したとか言うし、やっぱりビミョーな気分になる。

映像ではいっぺんで理解してもらうために易しく作るというポリシーには賛同するけど、そもそも監督が作品を理解してるのかどうか、インタビューを読む限りでは不安だ。「原作どおりに作ってくれ」なんて青いことを言う気はないけど、それなりに理解して作って欲しいものだ。今ごろ言っても手遅れだけど。

Tags: anime movie
本日のツッコミ(全4件) [ツッコミを入れる]

NT [「全員メガネ装着」って小道具じゃないですか、あれ(苦笑 > 電脳コイル]

ただただし [ダメだなぁ、心の目で見なきゃ! >NT]

tokoya [メガばあもメガネっ娘の範疇でしょうか?(笑)。 6/16に1〜5話まで一挙再放送だそうですよ。しかも6話の放送時間の..]

ただただし [まぁ、若き日の姿を妄想で補えばなんとか >メガばあ]


2007-05-26(土) [長年日記]

残像に口紅を (中公文庫)(筒井 康隆)

ちょっと前、映画『パプリカ』の公開に影響されて筒井康隆を回顧(?)する記事をよく見かけたが、この作品についての言及はあまりなかったようで残念だ。人気ないのかな。でも、ちゃんと文庫ですぐに入手可能なのは嬉しいね。ということで(単行本が発見できなかったので*1)文庫で買いなおして久々に再読した。

正直なところ、筒井作品はそれほど好きではない。初期のドタバタは根強い人気を保っているが、そもそもドタバタやハチャハチャといわれるSFは好みではないし。一方、『虚人たち』をはじめとするメタフィクション系実験小説も何冊か読みはしたものの、「ふざけんな」という感想しか抱けなかった(今読めば少しは違うかも知れないが)。が、本書だけは別格である。もし、ベスト小説を10冊あげよと言われたら、その中に入れてもいいくらいの傑作だ。

小説の進行に従い、世の中から文字を(正確には日本語の「音」を)1つずつ消していき、同時にその文字を使ったモノが消滅していく。しかもそのことに登場人物たちが自覚的であるという、設定だけみれば筒井らしいメタフィクション、それも「行き着く先まで行ってしまった」感のある実験にしか思えない。よほどの物好きでなければ付き合いきれないに違いない。

しかし、実際はさにあらず。

おれはよく、SF読み最大の楽しみのひとつとして「人ならざるものに感情移入できること」をあげるが、この作品はその究極にあたるだろう。なにしろ読者は、言葉そのものに感情移入してしまうのだから。しかも、作中で著者自らが「読者を言語そのものへの感情移入に導く」と宣言した上でのことであるからメタメタだ。

本好きなら、あまりの喪失感に落涙しても不思議ではない。この喪失感は、読み始めこそ失われた単語が表現していたイメージそのものに対するものに感じるだろう。だが話が進むにつれて読み手は、自身の言語そのものに対する愛着にじわじわ気づくことになる。読者は、自分の読書姿勢に対する新しい発見をするのだ。

さすがに、残る音が1桁になってくるとドタバタじみてしまうのだが、それでも話はきちんと進行し、最後の1つになってなおストーリーを失わない。筒井康隆の力量に驚愕するのも、また本書の楽しみである。たしか単行本では、雑誌未発表分の第三部は袋とじになっていたと記憶しているが、そういう細工をするだけの価値がある超絶的なアクロバットが見られる。

というわけで、『時かけ』や『パプリカ』のような、わりと一般人向けに書かれた話でしか筒井作品を知らない人に、まず勧めたいのが本書である。まぁ、楽しめるという保証はしないけど。

残像に口紅を (中公文庫)
筒井 康隆
中央公論新社
¥817

Tags: book

*1 書庫があるのにどうして発見できないのか不思議。

本日のツッコミ(全10件) [ツッコミを入れる]

Before...

ma2 [以前mixiの日記で「筒井康隆でNo.1と思う作品を書いてちょ」と無茶なお願いをしたらけっこうなメッセージが集まりま..]

ただただし [うへ、どっちも知らない(笑) >「我が良き狼」「驚愕の荒野」 ま、ようするに、ロクに読んでないってことですね(汗)。]

hyuki [あ、私も『驚愕の曠野』をお勧めしようと思っていたところです。私は予備知識ゼロでたまたまこの本を読んですごいことになり..]

ma2 [僕はなぜかファミ通のレビュアーの女性がいま読んでいると書いているのを見て読みたくなって読みました。これは大傑作ですよ..]

ただただし [とりあえず『驚愕の曠野』をウィッシュリストに入れました:-) 自選ホラー傑作集というヤツでいいのかなぁ。]

ma2 [よいです > 自選ホラー傑作集 『驚愕の曠野』は短いんですよね。最初のB5版の本は雰囲気があってよかったなあ。]


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