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ただのにっき


2011-04-16(土) [長年日記]

「東北関東大震災下で働く医療関係者の皆様へ――阪神大震災のとき精神科医は何を考え、どのように行動したか」を読んだ

東北関東大震災下で働く医療関係者の皆様へ――阪神大震災のとき精神科医は何を考え、どのように行動したか」というテキストが無償公開されていたので読んでみた。この本に収められている、中井久夫の手記「災害がほんとうに襲った時」ですな:

9784622037972

阪神大震災の直後から、神戸大学の精神科病棟で治療にあたった筆者の手記なのだけれど、いやもう、すごい。なにがすごいって(不謹慎きわまりない感想なのは百も承知だが)文体がすげーカッコイイのよ。おそらく精神科医ならではの姿勢なのだろうけど、対象からは一歩引いた視点が客観的でクール。それでいて賞賛すべき人は決して見逃さず、きっちり称える(が、過度に熱くならない)。いやぁ、これが1930年代生まれの力か。

災害と精神科というとPTSDのことばかりが取り沙汰されがちだが、災害直後はそれよりも既存の患者に継続的な投薬をすることの方が大切でかつ困難だ。筆者はそれを兵站の観点やボランティアの重要性の考察などをからめながらテキパキとこなす。避難所になった学校の校長への気配りなど、精神科医でなければ気づかないようなポイントにははっとさせられる。災害の現場で指揮をする立場の人にはすべからく読んで欲しい……というか、今じゃなくて二ヶ月前の被災地に届けたいよなぁ。これを読んでから災害に遭ったら心構えがすげーちがうぞ。

テキストの提供フォーマットはHTMLとEPUB。いつものようにcalibreでmobiに変換してKindleで読んだ。HTMLもケータイの画面に合わせて細長く整形してあるので、どれを選んでもストレスなく読めるだろう。

これらの提供フォーマットを考えたのが、この企画の発案者である最相葉月なのか、サイト制作を担当した「フジモト」なる人物なのかわからないが、被災地の制約のある環境のことをちゃんと考えているのがわかる。紙面をスキャンしてPDFにしただけとか、オンラインじゃないと閲覧できないFlashのビューアでお茶を濁している他の出版社とは一線を画すすばらしい仕事。

もっとも、これですら満足に閲覧できない環境もまだまだあるのだろうなぁ。というか、のんびり本を読む余裕もない医師、看護師も大勢いるだろう。願わくば、本書を必要としているできるかぎり多くの人の手に届きますように。

Tags: ebook

2011-04-15(金) [長年日記]

Jコミが理想から一歩後退してしまった……ような(2)

昨日書いた日記が非公式RTで広まって赤松健の目にとまってしまったので、なし崩し的にTwitterで質問タイムになったのだった。というか、基本的に「著名人は呼び捨て」という現代日本においてはごく普通のルールで書いてきたのに、こうやって直接会話してしまうと呼び捨てにはしづらいよなぁ。Twitter怖いです。

新サービス「ラノベ配信」開始の直前という忙しいさなかに長々と相手をしてもらって申し訳なかった感じだが、有意義な対話ができたと思うので、その時のもようをTogetterにまとめておいた:

震災以降、広告業界は本当にひどいありさまなので(なにしろしばらくのあいだいっさいの宣伝活動がなかったわけだから)、ここで言う「純広告」が少ないというのは真実だと思う。純広告が順調に入るまではmicro Adが使えるアルヌールでしのぐしかないだろう。一方でβ版の広告契約期限がくるまでに正式オープンしなくちゃいけなかったのだとすれば、アンバランスな状況もいたしかたないかな。

というわけでしばらくは(期待を込めつつ)状況を注視しましょう、というのが現時点でのおれのスタンス。もっとも、「純広告」に雑誌のスキームしか使えないというのもどうかと思うんだけど。広告代理店はJコミにマッチした提案をすべきなんじゃないかねぇ。今がんばれば数億円が動く新しいチャネルになるかもよ!*1

一方、気になるのがアルヌール上での閲覧で読者が満足すると考えている節が伺える発言があったこと。昨日も書いたように赤松健は一連の「Jコミ騒動」にまつわるインタビューで、手元にPDFを持つことでコレクターの所有欲を満足させることが大切だという意味の発言をしている。またつい先日打ち出した「違法絶版マンガファイル浄化計画」でもWinny等のP2Pネットワーク上に存在してる違法zipファイルを一掃しようと呼びかけているが、アルヌールでそれが実現できるとは思えない。クラウドにデータを置いておいても安心だと思えるのは、そのサービスの継続性がかなり確実な場合だけだ。悪いがJコミの継続性にはまだまだ危うい面があるわけで、手元にファイルを置いておきたいというニーズは根強いだろう。

そうはいっても「純広告」が入らないとそのニーズに応えるのもままならないわけで、ま、引き続き注目しつつ、KindleやSONY Reader(あとiPadも?)で読みたい人はしばらく我慢しましょ。赤松健も「PDFがいっぱい揃ったら、また見に来て下さい」って言ってるわけだし。

追記: アナウンス文から「上位3作品」という制限が消えたようだ。

Tags: ebook

*1 たった数億円ぽっちじゃ動かない業界かも知れないが(笑)。


2011-04-14(木) [長年日記]

Jコミが理想から一歩後退してしまった……ような

以前から何度かとりあげていた赤松健のJコミがついに正式オープン、新しい作品も公開されたというのでちょっと遅れて見に行った。新しく公開された作品というのは「プレイヤーは眠れない」。評判だけはちょっと聞いたことがあるので楽しみ。

ところが、探せども探せどもダウンロードリンクが見つからない。で、中の人のブログに行ってみて愕然とした:

★今後の、マンガのPDF化について

正式公開に伴い、βテストの4作品(ラブひな等)は、PDF版を抹消しました。このため、現在は全ての作品が、アルヌールでの閲覧となっております。ところで、βテストでPDF版に付けていたような「純広告」は高額で、それゆえ数は有限です。それに対して、アルヌールで表示しているような「ネット広告」は、無限に近いと言えます。そこでJコミでは、アルヌールで読まれた人気上位3作品ほどをPDF化することを計画しております。

アルヌールというのはJコミで開発したオンラインビューアだ。つまり、絶版コミックのPDFを手元に置いて好きなときに好きな場所で読めるというJコミのウリがどっかに行ってしまったことになる。はてさて、これはいったいどういうことだ?

理由として述べられている「有限の純広告のため」というのはちょっと嘘っぽい。というのも過去に公開済みの作品はすでにクリック上限に達しているのでわざわざ削除する必要はないからだ(もし新規広告の効果が下がることが懸念されるのであれば広告削除版のPDFに差し替えればいい)。

赤松健はJコミ関連のインタビューで、作者、出版社、読者のだれも損をしないスタイルとしてJコミを立ち上げたと語っている。特に読者の「コレクション欲」を満たすことを強調していた(例えば「Jコミで扉を開けた男“漫画屋”赤松健――その現在、過去、未来」)。今の状態ではコレクターのニーズがまったく満たせないことは赤松健本人がなによりわかっているはずなので、これは何か明かせない裏があるのだろうなぁ。

単純に考えれば広告が集まってないってことだと思うけど、コスト構造的に営業増やせるわけじゃないってことかね。それともうっかりβ版が成功しすぎたせいで作者がいっそうの収入を期待するようになり(ようするに欲が出て)、継続的に広告が打てるオンラインビューアでの公開のみを求めてるのか。もしこっちだとしたらちょっと困りものだよね、作者に批判が行ってしまうといけないから絶対に理由を公表できないし。

いずれにせよ、好きな端末で読めないのは魅力半減どころか限りなくゼロに近いので、この方針である以上「Jコミよさらば」としか言いようがない。がんばって欲しいんだけどねぇ……。

追記: とても重要な続きを書いたので読んでね! → Jコミが理想から一歩後退してしまった……ような(2)

Tags: ebook
関連する日記: 2011-04-15(金)
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sim [今、言及先のblogエントリを見てみましたが“そこでJコミでは、アルヌールで読まれた人気上位作品から、順次PDF化し..]

ただただし [本当だ。前進ですね。]


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