2019-03-20(水) [長年日記]
■ 映画「移動都市/モータル・エンジン」を観てきた
公開直後からTwitterやFacebookで「モータル・エンジン」ってキーワードが目に付き始めて、なにかと思ったら「移動都市」の映画が公開されたんだって(原題どおりだが記憶になかった)。原作を読んだのはもう10数年前だが、かなり気に入っている作品だ。
さーて、困った(笑)。言うまでもなく、好きな小説がよい出来の映画になることはほとんどない。これもそのクチだと思うじゃん? とはいえ、あの"都市"が動く様は観てみたいよなぁ……という誘惑に負けて、観てきた。
いやー、良かったよ。上映館が少ないからどうかと思ったけど、少なくとも"ロンドン"が荒廃したヨーロッパの大地を走り回って他の都市を捕食するシーンだけでも見る価値はある。またロンドンの造形が実にいい。現代のロンドンのモチーフをモザイク状に組み合わせて「でっかくて強い都市」をちゃんと作り上げている。住人の描写なんかも凝っていてすばらしい。まぁ、他に大きな都市は登場しないので、都市どうしの食い合いは楽しめないんだけどね……さすがに大規模都市を複数登場させるだけの予算はなかったか……。
この作品、そういうド派手な舞台装置も見どころだが、本筋は克服不可能なほどのハードルがあるボーイミーツガールなストーリーだ。映画のキービジュアルは顔を隠したヘスターだけで、もう一方の主役であるトムの姿がないのがめっちゃ不安だった。実際はまぁまぁ2人の関係の変化が描かれていて*1、及第点かなぁ。ヘスターの顔の傷もかなり大胆につけられていたし。
それよりもシュライクとヘスターの関係、とくにシュライクの描写がめっちゃ良くて感激。ヘスターとトムがシュライクに追い詰められる2回のシーンは、どちらも本当に手に汗を握ったし、息ができないほどだった。これもすばらしい。
ひとつ難点をあげるとすれば、飛行船。飛行船というより「謎の技術で飛ぶ飛翔物体」って感じで、さすがにこれはデザインを優先しすぎて物理的には飛べないだろうというシロモノ。引火しやすいってことは水素が入ってるんだろうけど、とてもペイロードを浮かせられるとは思えないちっぽけな気室と、燃料がどこに入るのかもわからない謎のジェットエンジンを搭載。これが現代の戦闘機なみに縦横無尽に飛び回るんだから、かなり白けた。原作では飛行船と都市の戦い方についてけっこう詳細な描写があったはずなので、ここを妥協して見栄えを優先してしまったのは残念だ。
とはいえトータルでは見どころ満載の楽しいエンタメ映画になっているので、観て損はないと思う。
*1 あざといキスシーンで終わらないのはとてもよい。
■ 映画「スパイダーマン:スパイダーバース」を観てきた
アメコミ原作の映画はあまり観ない方ながらこのアニメはなんだかめっちゃ評判がいいので気になっていたんだけど、機能美Pのレビューを読んでやっとそのわけがわかったので観てきた。機能美Pのオススメならハズレなわけがない(笑)。
面白かった! これはすごいアニメだ。
まずはっきりしておくが、プロットは凡庸だ。家族との確執、気になる女の子との出会い、良き大人による導き……よくある少年の成長譚。なのでそこはわりとどうでもいい*1。
この作品で見るべきなのはとにかくその映像だ。実験映画と言ってもいいくらいに冒険満載の映像、その魅力に尽きる。詳しくは上のリンクと映画『スパイダーマン:スパイダーバース』のアニメーター若杉遼にインタビューを読めばいい。ディスニー&ピクサーによる計算機パワーでぶん殴る系とはちと違う、むしろ日本のアニメファンが信仰する「手描き」の魅力がたっぷり詰まってる*2。
スパイディたちの造形も魅力のひとつだと思う。日本で人気のペニーが単にかわいいだけでなくあえて90年代あたりのジャパニメーションをベースに描かれているのは日本に対するリスペクトの現れだろう。もうひとりの女性スパイディであるグウェンも良い。個人的に、彼女の頭に魅力のひとつである剃り込みが入ってしまうまでの流れが丁寧でとても好き。
吹き替えで観たんだけど、声優陣の起用も良かったねぇ。ド安定の大ベテランから、実力派の中堅、気鋭の若手でバランス良く揃えた鉄壁の布陣。そうそう、これでいいんだよなぁ。色気を出してお笑い芸人や不慣れなタレントとかを入れないでくれて本当に良かった。
ともあれ「ソニーピクチャーやるじゃん!」と見直した一作になった。このスタジオの作品には注目していきたい。