2012-07-27(金) [長年日記]
■ 異動することになった
来月から異動することになったので、部で壮行会をしてもらった。おそらく最後にスピーチを求められるだろうから、部下の一人でも泣かせてやろうというミッションを密かに胸に抱いて参加。餞別に「HAYABUSA」のディスクと本をいただく。やはりほしい物リストは公開しておくものです(笑)。
今の部署に配属になったのはまだオフィスが新百合ヶ丘のときなので、ほぼ7年か。同じところにいるのは10年くらいが限界だと思うので、飽きてモチベーションが下がる前に離れるという、悪くないタイミングではないか。大企業のWebサイトがどのように維持・運営されているのかを目の当たりできたのはいい経験になったし、中でも解析チームを(自分が抜けてもぜんぜん大丈夫なくらいに)しっかりした専門集団にできたのは胸を張れる成果だろう。
一方、わりと足を踏み入れて浅いアクセシビリティ関連に関しては、やっと成果を出し始めたWAICの活動が中途半端になってしまうのが心残りといえば心残りなんだけど、まぁ、あそこは(いい意味で)変態専門家集団なのでこっちも抜けて問題はない。アクセシビリティ・キャンプ東京には引き続き関わっていくつもりだし(第2回は8月3日の予定でまだ参加者募集中デス)。
次の仕事に関してはどこまで書いていいのかわからないので書かないが、少なくともWeb業界からはいったん離れることになるかと。もうそろそろいい歳で、にもかかわらず部長になるには管理職として無能すぎるので(自分の能力を超えるところまで昇進してはいけない)、ここらでバシッとキャリアを変えてまた現場で腕をふるうのは自分に合っていると思う。腕をふるえるかどうかは未知数だけど。
なお、冒頭のミッションはもちろんコンプリートしました:-)
2012-07-26(木) [長年日記]
■ ケヴィン・ケリー著作選集 2 - 達人出版会
先日Kindle版がリリースされたのでようやく読んだ(いや自分でmobi化すりゃいいんだけどさ)。
第一集に続いて無料で配布されているこの第二集、白眉はやはり「技術は無料になりたがる」だろう。一番長いし。どんな技術も無料化に進んでしまうという話は今ではかなりの信憑性のある主張だと思うが、1998年の講演でKLMの幹部に鼻であしらわれたという話がなかなかショッキングでゾクゾクきます(ご存知のとおりその後の航空業界は格安化へまっしぐらである)。技術に携わる者として、「これが無料になったら、無料にしたらどうなるか」は常に意識しなくてはいけないんだよな。
個人的に面白かったのは「生き続けている古代の技術」と「アーミッシュのハッカーたち」。昨冬から編み物にはまっている身としては、こういう「古代の技術」がいまも生きていて、しかも生産性が上がっているもんだから物量的にも過去の実績を上回りかねないという話は身にしみてわかる(手製ニット製品が増え続ける我が家を眺めながら)。しかもこれらの技術、いまだ進化してるわけで「古代」といっても古いわけじゃない。
諸手を挙げての賛成とはいかないエッセイもけっこう多かったのが第二集の特色かも知れない。漠然とした印象だけど、保守的な方向の主張が増えたような気がする。特に特異点(シンギュラリティ)を否定的に扱った「思考主義」は、自説を有利に進めるためにシンギュラリティに不当な制約を課していたりして、シンギュラリティ信奉派としてはちょっと容認できないなぁ。そんな感じでちょっと注意しながら読み進むことができて、この話が早いうちに出てきてむしろよかったかも(笑)。
いずれにせよ読み応えのある、そして考えさせられるところが多い本であることには変わりがない。
2012-07-24(火) [長年日記]
■ リーダブルコード (Dustin Boswell/Trevor Foucher/角 征典)
今はプログラマにとって、歴史上もっとも「赤の他人のコードを読まなくてはならない」時代かも知れない。OSもフレームワークもクラスライブラリもオープンソースで、なにかトラブると頼れるチームの仲間ではない、地球の反対側にいる見知らぬ誰かが書いたものを読まざるをえない状況になる。
おのずとコードを「読む」技術を(苦労して)身につけなくてはいけないわけだが、同じ苦労を大勢がするのは非効率だ、書き手がもうちょっとなんとかしてくれてもいいのではないか……というエンジニアらしい合理性によって「他人が読んでわかりやすいコードを書こう」というテーマの本が登場する。つまりこの本。
冒頭からもう、自分の弱いところをチクチクと刺されて、身悶えしながら読むわけですよ。自分だって、一週間後の自分は赤の他人だという痛い経験を何度もしているわけだから、自分自身のためにもできるだけ明快なコードを書こうと意識していたつもりながら、その意識そもののが明快なルールを欠いていたことに気付かされてしまう。かといって責められてつらいといった気分にならないのは、本書が「頼れる先輩」が気さくに話しかけてくる雰囲気をまとっているためだろう。もちろんその雰囲気を削がない翻訳もいい。
構成は変数の名づけ方(名前重要!)から始まって、関数(メソッド)内の構成、クラスの構成という具合に視野を徐々に広げていく。しかも一人で今日にでも着手できる小さな部分の話、広範囲に影響が及ぶリファクタリングの話という風にテーマの粒度が揃っているからわかりやすい。はっきりと明快なルールのおかげで理解も早い。おまけに日本語版にはその先にあるもっと大きな領域、つまり「リーダブルコードをチームの習慣・文化として根付かせるにはどうしたら良いか」というソーシャルに踏み込んだ解説までついている。ここまでたどり着ければ文句はなかろう。
強いて不満があるとすれば、いくつかの書評でも指摘されているdo~whileの例がイマイチなことと、リファクタリングの説明からテストが抜け落ちていること(別の章にテストがあるのでここはあえて触れていないのだろう)、そしてチームとしての取り組みに紙数を割いていない点(だがもちろんこれは前述のとおり解説できっちりフォローされている)。つまりまぁ、ほとんどカンペキ。
売れてる技術書の例にならってAmazonには在庫がないので(なんせすでに4刷!)、オライリーから直接購入するのが吉。もちろん超特急でリリースされたEbook版もある。
リーダブルコード ―より良いコードを書くためのシンプルで実践的なテクニック (Theory in practice)
オライリージャパン
¥2,640