2012-04-12(木) [長年日記]
■ 殺人感染 (上) (扶桑社ミステリー)(スコット・シグラー)
医療サスペンスはけっこう好きな分野で、以前はロビン・クックなんかをよく読んでいたんだけど最近はごぶさた。というわけで、これも未知の感染症と戦う的な話だと想像して手にとったのであった。
前半はまさにそんな感じで、とつぜん患者が凶暴化して殺人鬼になってしまう謎の奇病の発生、異常な速度で腐敗が進む感染者の死体、ようやく手に入れた「新鮮な死体」の調査から浮かび上がる恐ろしく高度な寄生戦略など、なかなかぞくぞくする展開である。
ところが後半(この段落のみネタバレ)、実際の感染者のようすに描写がうつると、なぜか話はホラーになり、「SFボディスナッチャー」になり、おやおやと思っているとファースト・コンタクトものになって、最終的にB級侵略SFなオチでしめられるという。なんだこれ(笑)。いや、星間飛行の一手段としてこれはアリかもだけど、向こう側に知的生命がいないとダメってあたりでいろいろダメじゃねーの、というかSFだったのかこれ。
もっとも、面白くなかったかというとそうでもない。ロビン・クックを読まなくなったのは、主人公が高等教育を受けたとは思えないほどどうしようもなくバカばっかりで、それが「ストーリー上こいつがバカである必要があるから」程度の理由なのが我慢できなくなったためなんだが、本書の感染者サイドの主人公も脳よりも筋肉で考えるタイプ。ただ、元アメフト選手の彼がそういう人物である理由がちゃんと掘り下げられていて共感できるし、なにより寄生生物との孤独な戦いをするのにこれ以上はないくらいに最適な人物なのだ。
とにかくこの主人公の戦いっぷりがマッチョで、アパートの一室を舞台にくりひろげられる「ランボー怒りの××」みたいで実に爽快。いや、描写はものすごく残酷で痛々しいから血が苦手な人にはあれだけど、「自分の体内に巣食う生命体と戦う」というシチュエーションは新鮮で面白かった。