2011-05-01(日) [長年日記]
■ 小惑星探査機「はやぶさ」の超技術―プロジェクト立ち上げから帰還までの全記録 (ブルーバックス)(川口 淳一郎)
これは面白かった。これまで読んだ「はやぶさ本」の中で一番面白かったかも知れん。ブルーバックス侮れんわー。
前半は川口さんによるまとめ的な原稿なので基本的には他の本とあまり変わらないのだけど、本書の立ち位置が「(一般向け)技術解説書」なので、軸足もやや技術寄り。ただ、「一番」になることがどれだけ重要か、「はやぶさ」がどれだけたくさんの「一番」を目指した野心的なプロジェクトなのかというポイントが存分に語られていて、他の「はやぶさ本」にありがちな浪花節的な部分は影を潜めている。「はやぶさ」以外にも、たとえば「ひてん」による(世界初の)エアロブレーキがNASAのエアロブレーキ利用に火をつけたとか、そういう(いい意味での)自慢話がいくつも登場する。
が、さらに後半、イオンエンジンの國中さんをはじめ、プロジェクトに携わった技術者・科学者たちが自分の担当領域について語る段が、もうべらぼうに面白い。イオンエンジンの名称「μ10」に込められた思いとか、地球再突入前の軌道修正をどうしてあんなに何度もやったのかとか、赤外線センサーやX線センサーの開発におなじみの「あのメーカー」が登場したりとか、例をあげたらきりがない。
ソフトウェア技術者的には、やはりNECの人たちのハッカーぶりが印象的だ。「はやぶさ」のイトカワアプローチで運用中に編み出された「地形航法」につかうツールがほんの半日で書かれたとか、ハード面だけでなくソフト面でもすごい話が満載だ(とはいえ、トラブルのいくつかもソフト的な原因なのでぐぬぬだが)。関係ないけど「地形航法」の考え方がPalmに通じるところがあって個人的にすごく好き。
読み始める前は本書のタイトルをみて「宇宙機に使われてる技術は基本的に枯れてるんだから、『超技術』とか名づけて神格化するのはどうなのよ」と斜に構えていたんだけど、どうしてどうして、ちっとも枯れてない新技術満載の探査機だったことがわかって、(もうそろそろ帰還から1年にもなるというのに)感心することしきりである。そしてこれが「はやぶさ」だけの特別なことじゃない、日本の探査機すべてに言えることだってんだから、胸が熱くなる。チャレンジってこういうことなんだよなぁ。