トップ «前日 最新 翌日» 編集
RSS feed

ただのにっき


2010-10-28(木) [長年日記]

ソリューション・ゲーム 日常業務の謎 「このミス大賞」シリーズ)(伊園 旬)

たまには小説も読まないと想像力が錆びついてしまうので発掘。「面白いよ」といわれてもらったんだったか。うん、けっこう面白かった。派手さはないけど肩のこらないエンターテイメント。人を食ったような語り口ながら行き過ぎにならない節度があって、波長が合う文体だなーと思って奥付をみたら同世代だった。どうりで。

コンプライアンス的に自由が効かない親企業の代わりに汚れ仕事を依頼される、大手IT企業の子会社の無茶なお仕事の数々を集めたオムニバス長編。著者が「このミス大賞」の人だし、謎解きテーマの第一話読んでいて「ミステリーかな?」と思ったけど、種明かしがちょっとルール違反っぽいのでそういうスジ向けじゃなさそうだ。むしろプロットはピカレスクロマンで、スケールは大きくないけど不幸になる人がほとんどいない、きれいなオチがつく。

この会社の社長の「〈多数から少しを奪う〉よりも〈一人から多くを奪う〉行為の方が罪深い」というポリシーが、気が効いてていい。売れる小説を書こうとすれば、おのずと派手になるこの逆をいくものだろうけど、それだとリアリティがないからそういう指向の小説は白けるんだよね。〈多数から少しを奪う〉話はみんながちょっとずつ不幸になり、全体的には幸福というオチになるので、地味だけど得心できる。現代小説だったらこういう方が面白いよなぁ。

Tags: book

トップ «前日 最新 翌日» 編集
RSS feed