2008-05-08(木) [長年日記]
■ 本泥棒(マークース ズーサック)
タイトルに惹かれて、まったく予備知識なしに買ってみた。だって『本泥棒』だよ? 買うよなぁ。ちなみに非SF。読み終わってから、外国ではベストセラーになっているということを知った。ベストセラーは買わない主義だったのに……。
養子に出された無教育で貧相な主人公の女の子と、お人好しで優しい養父、ツンデレの養母。近所に住む、主人公に恋焦がれる少年。やぁ、これは『赤毛のアン』のバリエーションですね! 大好物だぜ!!
しかしながら、舞台は第二次世界大戦下のドイツ。暗い話がひたすら続く。養父の教えで字が読めるようになった主人公は、言葉の魅力にとりつかれていくが、残念ながら貧乏な一家に余裕はなく、盗むしか本を手に入れる方法はないのだ。大好きなものを手にするのに、他人から奪い取るしかないなんて、それだけで泣ける。
各章の冒頭で、その章の結末が明かされるという変わった構成から、単純にストーリーの上っ面を読んでおしまいにすることは期待されていないのがわかる。それだけに、ドイツに暮らす少年・少女たちの描写が実に緻密で、臨場感がハンパじゃない。
実際、ストーリーだけを追うならば、考えうる最悪の結末を迎える、ただの後味の悪い話になってしまう*1。しかし、そこから振り返ると、数えるほどの暖かいエピソードたちが、まばゆいばかりに輝くのだ。重いようで軽やかな、不思議な読後感のある一冊。歴史に残る名作になるかも知れん。
*1 語り手である「死神」が自らの言葉で語るエピローグでは少し救われるが。