トップ «前日 最新 翌日» 編集
RSS feed

ただのにっき


2013-02-08(金) [長年日記]

不確定世界の探偵物語 (創元SF文庫)(鏡 明)

字が小さめの本から片付けていこうと思って掘り出したのが、鏡明の「数少ない完結した」この作品。書かれたのは30年くらい前だが、2007年に創元が復刻したのを買ったまま眠らせてあったのだった。

世界にたったひとつのタイムマシンを個人が所有して遠慮会釈なしに過去を変え、世界がどんどん変容していく世界。ちょうど慣性のように元の時代の記憶がわずかに残るというのがミソで、多世界解釈だが「隣」の世界と完全に分離していない感じなのが設定面での面白いところ。もちろんこれによって人々の生活や精神がどのように変異するかというあたりがSF的に面白いところで、解説にもあるけど雰囲気はディック的な様相だ(まぁディックは嫌いなわけだが)。

そんな過去という存在そのものが怪しげな世界で探偵モノをやるという不条理さが面白い……はずなんだけど、前半はそれほど設定が生きてないというか、正直ちょっとかったるいテンポ。後半、マシン所有者の正体やその価値観なんかが表面に出てくるとじわじわ面白くなってくる。タイムパラドックスが発生しないこともあってパズル的な要素はないんだけど(だからミステリとはちょっと違うと思う)、足元のフニャフニャした世界でどう自分を保っていくのかという観点で読むと面白い。

30年も前の作品ともなるとインターネットが登場しないので(登場する最新の通信機器はTV電話)、さすがに古さは否めない。ちょい古SFにとってほんとインターネットは恐ろしい存在だと思う。それでも遠隔地のコンピュータに侵入する描写があるのはさすが。そういえば、頼りない主人公の探偵に強くて美人の助手が付くというスタイルも今となってはだいぶ手垢のついた感じがしてしまうけど、時代的には先駆的な組み合わせだったのだろう。鏡明すげぇな。

不確定世界の探偵物語 (創元SF文庫)
鏡 明
東京創元社
(no price)

↑は在庫ないっぽいけどKindle版はある: 不確定世界の探偵物語 (創元SF文庫)
鏡 明
東京創元社
(no price)

Tags: book

トップ «前日 最新 翌日» 編集
RSS feed