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ただのにっき


2008-02-05(火) [長年日記]

ローバー、火星を駆ける―僕らがスピリットとオポチュニティに託した夢(スティーヴ スクワイヤーズ)

近年まれに見る大成功をなし遂げた火星探査機「スピリット」と「オポチュニティ」の開発者が自ら綴った大冒険の記録!

……というわけで、めちゃめちゃ面白いという評判は出てすぐに聞いていたし、SF大会で関係者の話を聴いたりしていたのに、なかなか読めなかった。いやはや、もっと早く読んでおくべきだった。これはすばらしい。

ただ、全編火星上の冒険談かと思うとぜんぜんそんなことはなくて、打ち上げでちょうど半分くらい。じゃあ前半は何の話なのかというと、延々と企画、設計、開発そして金の話である。

宇宙探査と金の話というと、日本の「のぞみ」や「はやぶさ」のことが思い浮かぶが、予算がたっぷりあるかのようなNASAでさえ、やっぱり金の話はついてまわるのだ。もちろんISASとは桁の違う金額だし、足らなくなるたびに十億円単位で金が湧いて出る不思議な魔法のポケットがいくつもあるので、ISASのように「困難は金よりも知恵で解決」という雰囲気はあまりない。それでもやっぱり貧乏な感じはずっと漂い続けるのだ*1

2年に1回火星に探査機を飛ばすアメリカのこと、チャンスは多いが、一方でライバルも多い。複数のプロジェクトチームが億円単位の「準備金」を与えられてコンペをするんだから豪勢な話だが、つぎ込む情熱も金額に応じて高まるわけで、落選したときにがっかり感もまたすさまじいものだろう。

なんにせよ、「こうまで挫折を味合わないと火星まで探査機飛ばせないのか!」と、筆者とともになんども絶望すること請け合い(←嬉しくない)。ここで共感しておかないと、後半の冒険につぐ冒険で感情移入できないから、しっかり絶望すべし。

あとはまぁ、みなさんご存知の、2台の驚異的寿命を誇るローバーが、火星の上をあっち行ったりこっち掘ったりする話である。相次ぐ新発見に、読んでいてくらくらする。これほど「報われた」惑星探査もないんじゃないかなぁ*2。巻末にプロジェクトに関わった数千人の名簿が載っているんだけど、これだけの人々が胸を張れる仕事になったんだから、本当にすばらしい偉業だ。


余談というか、ネタバレっぽいので分けるけど、火星上のスピリットが最大のトラブルに見舞われたときのエピソード。ソフトウェア担当者が「こんなこともあろうかと」を地でやっていたのにずっこけた。NASAは品質管理がしっかりしてると思っていたのに、まさかバックドアを仕掛ける余地があるなんて!

このエピソード、感動した一方で、ちょっと残念というか、本来の設計や品質確保ではない部分に助けられたという点が、ソフト屋としてがっくりきた。ハードウェアは設計品質として当然のようにマージンを見込んであるのに対して、ソフトウェアは「ハッカーによってこっそり仕込まれたバックドア」に救われるのである。あぁ、ソフトウェアには、まだまだ進歩の余地があるよなぁ。

ローバー、火星を駆ける―僕らがスピリットとオポチュニティに託した夢
スティーヴ スクワイヤーズ
早川書房
¥279

恐るべき旅路 ―火星探査機「のぞみ」のたどった12年―
松浦 晋也
朝日ソノラマ
¥179

追記

うっかり「ISAS」を「NASDA」って書いちゃった。修正。

Tags: book

*1 とは言うものの、「安くて小さい惑星探査機づくりはジェット推進研究所の得意とするところではなかった」とかしゃあしゃあと書くあたり、桁違いの金持ちであるのは間違いない。

*2 ヴォイジャーがあるか。


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