2005-12-27(火) [長年日記]
■ イーガンは短編から入れ
にじむさんのトコのツッコミ欄でイーガン読むならどう読むか的な話をしていたら、とつぜん翻訳者の山岸さんが降臨するという事態になって、なかなか楽しかった。これだからネットはやめられん。
にじむさんはやたらと恐縮しているが、SF系日記更新時刻Rとかに捕まったら、関係者の目に継続的にさらされることは覚悟しないとね。……む!? ってことは、ここに要望とか書いておくと、出版関係者に読んでもらえたりするわけか。「スコーリア戦史の続きを出してくれぇ」とか(そこかよ)。
しかし、読まれる覚悟はすべきだが、手加減もすべきではない。関係者の目を気にして書くことをためらっても、誰も得をしないであろう。まぁ、作者は気をよくするかも知れないが、書かれるべきことが書かれないことで読者が損をしたら意味がない。
というわけで、「イーガンの長編はSFマニアのもの」という意見を変える気はないんだけど、山岸さんのツッコミと、言いたいことはたぶん、ほぼ同じなんだよね。表現はだいぶ違うけど。もし、いきなり前戯もなしに『ディアスポラ』を勧めてくるようなヤツがいたら、ソイツは誠意に欠けるSFファンだと思うな、おれは。SF読みなら、この本はSF耐性のない人にはキツいということを意識すべきだと思う。ちゃんと楽しんでもらうために、体を慣らしてもらおう。
だから、イーガンを勧めるなら、まず短編集を読ませよう。イーガンの短編には、SF読みじゃなくても楽しめるくせに、SFの素晴らしさがはちきれるほど詰まっている、稀有な作品ばかりだ。読んでいるうちにSFの楽しみ方が自然に身につく。イーガンほどSFに対する急峻な学習曲線を持った作品を書ける作家はそういない。
で、「うん、面白かった!」と言われたら、もう大丈夫。『万物理論』なり『ディアスポラ』を勧めよう。いきなり『ディアスポラ』を読ませるのは、目隠しをしてジャングルのど真ん中に連れてきて放置するようなもんだし、しかも相手は10次元のジャングルなんだぜ? でも、短編集を読めた人なら、きっと長編も楽しめるだけの「SF耐性」を身に着けているので、こんな「マニア向け」の作品だってちゃんと読めるはずだ。
「宇宙消失」からじゃダメなのかなあ。
いやぁ、「万物理論」に愛を感じましたぜ。
「ディアスポラ」には、冗長性の大事さ、あるいは身体の大事さ。
こんにちは。今回はなるべく長文にならないようにします^^。
>ここに要望とか書いておくと、出版関係者に読んでもらえたり
ぶっちゃけ早川に関しては現状その実効性は薄いんじゃないかと想像します。ご希望ご要望は葉書を出すのがいちばん効くかと。1月末に『順列都市』が増刷されるのも、読者から会社へ、あるいは書店から営業へ(つまり読者から書店へ)の問いあわせが多かったのが原動力のひとつのようにきいていますし。時代逆行っぽいですが、労をいとわぬ地道な活動がいちばんってことかも。
>読まれる覚悟はすべきだが、手加減もすべきではない。
賛成に1票(と思ってるから、のこのこ出てきたわけで)。だいたいそんなこと気にしてたら書評は書けないし、ましてネットで日記に書かれてるのは各人の正直な感想なわけですから。それも、罵倒すればえらいと思ってるような手合いや、自分語りや、感情や好みにまかせて作品を曲解してる感想は、書き手が読者からそういう人だと思われて終わりになるだけだし。
『ディアスポラ』をいきなり読ませる云々については、「いきなり前戯もなしに」という一節がありますので、たぶん意見に決定的なブレはないんじゃないかと思います。
ただ、この本がSF耐性のない人には“ある面で”キツい作品なのはたしかですが、たとえば、文学的素養とか小説を深く読むとかいう方面の「前戯」をたっぷりすませている人は、ある種のSF読みが思うのとは別のかたちで(そして、また別のある種のSF読みが思うようなかたちで)、“ちゃんと”楽しむかもしれないということは忘れてはならないでしょう。
(あと、まったくSFを読んだことがないという編集者に、大森望氏がたまたま『時間衝突』を渡したところ、その日のうちに大興奮の電話がかかってきたという例もあるそうですから、SF耐性についても一般論化するのは禁物かと)
>roverさま
はじめまして。日記は毎日読みに行って、本の感想もですが、毎週の特撮・アニメ、そして映画の評を楽しんでいます。
で『宇宙消失』ですが、イーガンの訳書でいちばん長く残るのはあるいはこれかも、という気はします。なにせまん中近くで出てくる、大森氏いうところの「史上最大のホワイダニット(〈バブル〉出現の理由の仮説)」のインパクト(わかりやすい驚き)はただごとじゃないですからねえ。『星を継ぐもの』が読み継がれているのと共通するものがあると思います。(忠誠モッドとか後半の奇想のほうに衝撃をうける人もいるでしょうけど)
が、今回の話は、“「SFをずっと読んできてこれからもSFの人」ではない人”に読ませる云々というものなので、作品選択・配列ともそのへんをすごく意識して作った短篇集2冊がベストチョイス(安全パイともいう)、という流れになるかと。
すみません、結局長くなってしまいました。このへんで仕事(奇コレのイーガン短篇集の翻訳)に戻ります。
それでは。
山岸さん、どうもです。
「安全パイ」という表現は実にしっくりきますね! たぶんこの件に関して、私は臆病なんでしょう。「こんな過激なものをいきなり渡したらまた(?)誤解されてしまう」という恐怖が抜け切らないのだと思います。
(要望云々……はもちろん冗談です。スコーリア戦史を出して欲しいのは本気だけど[笑])
えっ。じゃあ『ワイルドカー(略
「宇宙消失」はイーガンの長編の中で一番短編ぽいというか,大森さんの言うところの「文系SF」的であるところが,エンターテインメント性につながっているのではないかと思います。次が「万物理論」かなあ。「順列都市」と「ディアスポラ」は,まさにイーガンの長編って感じですよね。
「宇宙消失」のホワイダニットの驚愕に匹敵するといえばただ1つ。泡坂妻夫の「DL2号機事件」ですね!
非SF読者にSFを勧めるときって「私が勧めたSFが拒否されたらもう二度とこの人はSFを読まないかもしれない」と言う微妙なプレッシャーが在る気がしないでもないです。
最初に勧めるイーガンは『幸せの理由』かなとは思うけど、ちょっと質がバラバラな気はします。「適切な愛」はあまり SF っぽくはないけど、「ボーダー・ガード」みたいな純物理思考が必要な作品もあるので。
量子サッカー、何度やってもうまく狙って収束させられない…
今回の場合は別にSF読んでない訳ではない私が「でもイーガンは……」と言ったところから始まったので、yooseeさんのおっしゃるケースとはちょっとまた違うのでしょうね。そういう状況には何度も遭遇してるので、お気持ちはよく分かります。周囲がSF者というのは時に逆方向に働くもので、特に『ディアスポラ』は「理系ウハウハ」とか「冒頭でもう挫折しそう」とか耳年増になってしまっているのもいけないような気はします。具体的に聞こえてくるのはそういう声が圧倒的だった、というだけなんですが。まあ、皆さん読破してるところを見ると、面白かったんだろうなあ、とは思います。
http://bm.que.ne.jp/log/20051227.html#p05
Mint Julep
[本の話][MySite]いくらなんでもそこまで天然さんじゃあない
たださんにはすっかりいい人扱いされてるけど、いくらなんでもそこまでウブじゃあありませんよ。私が「えええっ、こんなところ見ててくれるなんて」と毎度のことながら驚くのは、私のサイトは「取るに足らない」ところだからですよ。検索などで引っ掛かることがあるとは..
おれも『ワイルドカー(略