2014-11-19(水) [長年日記]
■ 「メイカーズ」コリイ・ドクトロウ
Makerブームの立役者のひとり(?)、ドクトロウの「メイカーズ」を、さまざまな英文を翻訳していることで知られるH.Tsubotaさんが翻訳していたので読んでみた。HTML版およびEPUBまたはmobi版が無償で入手できる。
ドクトロウといえば以前「マジック・キングダムで落ちぶれて」をけちょんけちょんにした記憶しかないのだけど、本作はけっこう楽しめたかな。2009年の時点でMakerブームとその行く末をここまで描けるのはたしかにすごい。こういうネタだと単純に「あるMakerの成功譚」になりそうなところ、わりと山あり谷ありで、けっして明るいばかりではない結末になるあたり、なかなか誠実だ。
もっとも、5年前の作品ということを割り引いてもリアリティはそんなに感じられなくて、まぁ近未来を描くSFはどうしてもそうなってしまう傾向があるとはいえなんでかなーと不思議だった。で、序盤を読み終えたところでちょうどDMM.make AKIBAがオープンして、そのレポートを読んで謎が解けた。DMM.makeには製作用だけでなくさまざまな検査用の設備があるんだけど、この小説にはそういう描写がいっさいないからなんだな。安全かどうか、環境を汚染しないかどうかもわからんようなものが、こんなふうに世界を席巻するわけがない。あと、とにかく登場する「3Dプリント作品」がどれもぜんぜん魅力的じゃないというのも大きい(笑)。
それはさておき、読んでいて心の中で大きくなっていったのはやはりリチャード・ストールマン(RMS)の存在。RMSも扱いづらいタイプのハッカーとしてこの作品の主人公たちに重なるところが多いのだけど、彼は法律さえもハッキングのターゲットにしてしまうという意味ではるかに格が上なのだ。本作の主人公たちはストーリー上は文字通り「世界を変える」のだけど、こっちにはRMSという比較対象がいるもんで、なんだか矮小な存在に見えてしまう。RMSを超える人物はフィクションの中にさえ登場しえないということか(この作品世界には少なくともGPLはあるようだけど本人は登場しない)。
ところで日本語版は小説としての一般作法から外れてるところが多くてかなり気になってしまったのだけど(三点リーダを使ってない、文頭の字下げがない、段落間の行間が空きすぎ……など)、フィードバックはどうしたらいいんだろう? パッチ送りたい。
追記: とか書いたらリポジトリを公開してくれた! わーい。