2014-06-13(金) [長年日記]
■ 図書室の魔法 上 (創元SF文庫)(ジョー・ウォルトン)
急に新作を読んでどうしたことかと思われたかも知れないが、例によって本が好き!の献本にあたったのである(いつものとおり4回目の応募)。一ヶ月以内に書評を書かないといけないので焦る。
妖精が見えて魔法が使えると本気で信じている重度の中二病患者であるウェールズ育ちの15歳の少女が、ひょんなことからイングランドの全寮制女子校に入れられてしまい、差別や偏見に押しつぶされそうになりながら送る生活を本人の日記という体裁で綴った作品。彼女が逃避先に選んだのは「本」。それもSFばっかり!
1980年前後の数ヶ月間の出来事なので、脂の乗り切った英米SF作家の作品ばかりがバカスカ出てくる。巻末に登場作品の一覧が11ページにもわたって掲載されているのだけど(労作!)、21世紀の現在から振り返ってもSFが最高に豊穣だった時代だ。なので必然的に本書は主人公が読んだ本の感想がメインになる。ティプトリーが「彼」から「彼女」に変わったり、ハインラインやディレイニーの影響を受けて同姓愛に理解を示したりと、まぁ同じ年代の作品を読んでいればニヤリをすること間違いなしの描写がてんこ盛りで、昨今のSF読みはそういうのが大好きな世代がメインなのでヒューゴー賞は当然だし、ネビュラ賞選者だって一皮むけば同じSFファンなのだから、結果ダブルクラウンとなるわけだ。まったく、SFファンなんてちょろいもんだぜ!
……ちょろくて悪かったな!
それはさておき、主人公はSFを通して学校外のコミュニティに接し、ようやく安住の地と仲間たちを見つけ、さらに充実したSF生活に突入する(ボーイフレンドとの最初の痴話喧嘩のくだりなんかは爆笑ものである)。が、終盤になって冒頭で「中二病」と切って捨てたはずの妖精と魔法が実際に登場して、ちょっとした冒険になる。これがはたして本当にあったことなのか(つまり本書はファンタジーなのか)、それとも主人公の日記そのものが虚構なのか判別できないというのが本書のポイントのひとつになる。と解説に書いてある。けど、おれはSFファンってやつをよく知ってるからなぁ。SFファンの日記が徹頭徹尾ノンフィクションとかありえないだろ? ということで、おれの解釈は後者なんだけど。まぁ、そこは人それぞれ楽しめばよろしい。
おれは主人公とだいたい同世代なんだけど、登場するSF作品の多くを(翻訳ラグで数年の違いがあれど)日本語で読んでいて驚いた。実際、巻末のリストにはほとんど翻訳がある。これに加えてやはり最高に豊穣だった日本SF作品が山ほど出版されていたのだから、主人公よりよっぽど濃いSF生活が送れてたんじゃなかろうか。1980年代の日本のSFファンはほんとうに幸せだったのだなぁ。