2013-03-21(木) [長年日記]
■ 星新一〈上〉―一〇〇一話をつくった人 (新潮文庫)(最相 葉月)
Kindleの深いところからどんどん古い本が出てきて電子積読怖いです。
ショートショート1001編という前人未到の記録を、ただ淡々と積み上げて達成したかのように見えていた星新一の人生が、実際は波瀾万丈できわめてアップダウンの激しいものだったということを、緻密な取材と膨大な資料をもとに再現してみせた本書について、いまさらなにか書くことはないと思う。とっとと読んでおけよ、と過去の自分に言いたい。まぁ、文庫の方が情報量が多いらしいので、ハードカバーで読まなかったのは正解かも。
それより、ちょうど上巻から下巻にかけて日本のSFシーンが徐々に勃興してくるあたり読んでいるタイミングで、現在の日本SF作家クラブのお家騒動があって、その対比がなかなか興味深かった。まだまだマイナーで無理解からくる迫害も多かったあの頃から50年、SFはすっかり日本中に浸透しきってしまい、フィクションにSFじゃないものを探すほうが難しい。当然作家クラブだってそれに合わせて変わらなきゃいけないはずだけど、一読者からはなにも変わってないように見えていたので、危機感のある人とは温度差あっただろうなぁと思う。今回作家でない人が加わったのは何か変化の兆しならいいですね。いやもちろん、瀬名秀明の言うように何も変わらずただ消えていくのもありだけど。
日本SF作家クラブの会員はべつに小説家にかぎった話ではなくて、批評家や評論家、編集者も在籍してますし、出版関係以外でも、たとえば大槻ケンヂ氏とか(小説もあるけど)、ガイナックスの武田康廣氏とかも会員名簿に載ってます。件の話はあんまり突っ込んだことはよく知らないんですが、こういった状況からして、池澤さんが加入したこと自体は、ものすごい異例であるとか変化の兆しであるとか、そういうようなものでもないかなあと個人的には感じています。
あれ、おれ小説家なんて書いたっけ……と思って読み返したらがっつり「作家」って書いてあった。すんません。クラブ創立の意図としてプロとアマを峻別するというのがあったので、どちらかというとファン寄りな池澤さんが入ったことは変化かもなーと感じたのでした。もっともSFマガジンに連載を持っているのはもうファンじゃなくてプロかも知れないね。