2012-07-19(木) [長年日記]
■ リーン・スタートアップ ―ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす (エリック・リース)
当面起業する気はないし、読むとしてもしばらくあとでいいなー、とか思っていたら「開発者こそ読むべき本」というメッセージとともに、誕生日プレゼントとしてもらったのであった。どうもありがとうございます。
で、読み始めてすぐに「あれ、これっておれらアクセス解析屋がいつもやってる(もしくはやろうとしている)方法論と同じじゃん」と思ったのであった。仮説を立て、何を測定するかを明確にし(KPI)、スプリットテストの結果を数字で評価する。コホート分析を使うところなんかもそのまんま。なるほど、マネジメントを科学にするというのはそういう意味か。
本書が扱う「スタートアップ」は別にベンチャー企業のことではなくて「先の見えない困難な状況に立ち向かう組織」というくらいに大きなくくりだ。どんなに強力なサーチライトがあっても見通せないような濃霧の中、ペンライト一本で正しいルートを探し出すにはどうしたらいいか。見える範囲で少しずつ進み、現在位置と方角の正しさを測定によって確認するしかない。それはつまり、科学の手法だ。科学の成果をいただくのではなく、科学の「方法論」を使ってムダのない組織運営をしようという話だ。
「リーン」という言葉のとおり、出発点はTPS(トヨタ生産方式)にある。というか、有名な「5つのなぜ」をはじめ、出てくるメソッドの多くはTPSそのままだったりする。ただ、TPSはその出自からどうしても製造業を連想しがちで、こういう組織運営論にはすっとなじまないことが多い(主に受け手の問題だが)。本書ではそのあたりがうまく抽象化されていて、生のTPSよりもずいぶん納得感が高い印象。これならやれそうって思うし。成長エンジンの類型化なんかもわかりやすくて、汎用的かつ具体的によく考えられてるなぁ。
こういうメソッドは組織のリーダーだけが知っているだけではダメで、構成メンバの全員が理解している必要がある。そういう意味で開発者も、誰もかれも読んでおいて損はない。こういうやり方で仕事をして欲しいんだよなぁ! ……という意味では、うちの解析チームのメンバにもぜひ読んでもらいたいと思った。
もっとも、このメソッドをいちばん適用して欲しい分野は、政治だったりする。「消費税をあげると税収が増える」とか「違法ダウンロードに罰則を課すとCDの売上がのびる」とか、そういう"仮説"はちゃんと実験してから法律にして欲しいわけですよ。この例はどっちもネガティブな結果が出そうな気がプンプンするけど。