ただのにっき
2012-03-17(土) [長年日記]
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日本人のための科学論 (PHPサイエンス・ワールド新書)(毛利 衛)
震災前に出版された本書を、震災1年後に引っ張りだして読むのはちょっとイジワルな気がしなくもない。なにしろ、のっけから「日本は原子力発電を推進すべし」なんて書いてあるわけで、おそらくこの1年、毛利さんは原発推進派と目されてそうとう攻撃されたに違いない。
もっとも、ちゃんと読めば科学一辺倒の偏った主張をしているわけではなく、科学を「文化」の一翼ととらえ、他の文化とともに「総合智」をもって課題に取り組もうと呼びかけているのがわかるわけで、なんらおかしなところはない。福島第一の事故にしたところで科学面では未知のことが起きたわけではなく、むしろエンジニアリングやリスクマネジメントの課題を浮き彫りにしたと言えるのだから、本書の呼びかけはむしろ今読んでこそ価値を持つんじゃなかろうか。
特に科学未来館で働くサイエンス・コミュニケーターの育成に関してかなりの紙数が割かれていて、これがけっこう面白い。以前Wikiばなの感想でサイエンス・コミュニケーターってマーケッター兼営業なんだなと書いたけど、まさに未来館を卒業して営業職に転職した人が登場したりして我が意を得たり。営業なしでのビジネスがありえないように、科学という文化を定着させるにあたって未来館方式のコミュニケーター育成はかなり重要だと思う。
というかこの1年、科学的思考をすっぽり欠いたまま「放射能」を怖がるばかりの人たちを大勢みてきたので、この仕事はまだぜんぜん足りていないのだよなぁ。これからも未来館をはじめ、サイエンス・コミュニケーターのみなさんの活躍に期待したい。というか自分を含め、科学教育を受けてきた人間すべてが、こういう経験をしておくべきだと思ったね。
ところで最近の毛利さんの発言を探していたら、未来館の館長挨拶が出てきた。たぶん定期的に書き換わると思うので、一部引用しておこう。震災後でもぜんぜんぶれてないね。
東日本大震災による自然災害や、原子力発電所の事故などで、科学技術の限界や負の側面もみえています。これらの問題をどのように解決していくのか、社会に生きる一人ひとりが熟考し、選択しなければならない時代となりました。
日本科学未来館はこうした人類的課題に対して、科学の役割を問い直し、科学だけでなく、政治、ビジネス、芸術、教育といったさまざまな分野の「知」を集め、解決策を皆さんとともに考え、提案します。科学は一部の人のものではなく、皆で共有する価値ある文化。多くの人々の生活と未来につながる先端科学技術を伝え、社会に貢献していきます。