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ただのにっき


2011-04-17(日) [長年日記]

言語設計者たちが考えること (THEORY/IN/PRACTICE)(Federico Biancuzzi)

なんと、1月20日にPDFを買って以来、ずーっと持ち歩いていたのにいまごろ読み終わるという。まぁ、他の本に寄り道しながらだったのだけど。というのも20個近いプログラミング言語について、作者にくまなくインタビューしているので、つまみ食いしながら読めるし、一方それぞれの項がかなり深くつっこんだ内容なので続けて読むと疲れてしまうしという。なにしろ厚いので*1、体力がいります。

驚くべきことに、プログラミング言語の本なのにその言語がどういうものなのか、本文中にほとんど説明がない。サンプルコードすらないから、いま話題になっている言語がどんなものなのか事前に知識がないと雲をつかむような感じになる。自分はさほど言語に興味のある向きではないから、この中のほんのいくつかしか触ったことがないし、おかげで新章に入るたびにその言語についてGoogle様におうかがいをたてる始末。

とはいえけっこう面白かったと思えるのは、登場する開発者の多くがかなり辛辣で、いちいち他の言語のことをけちょんけちょんにしているからだろう。冒頭、C++がJavaをメッタ斬りにしたかと思えば、続くPythonがC++をずたずたにする。読みはじめる前は、ちょっと浮世離れした言語開発者たちが、「ぼくの考えたプログラミング言語」について幸せいっぱいに語る本だと思っていたのに、蓋をあけてみれば他言語disりまくりのサウザンクロス・シティだったという。

なんといっても「すげーなー」と思うのが、インタビュアたちの言語に対する造詣の深さだ。これだけさまざまな言語について表面的ではないインタビューをできるのはすごい*2。しかも、複数の作者のいる言語はちゃんと(たぶん)全員に話を聞いている。AWKの3人がちゃんと登場してるんだから嬉しいじゃありませんか。あとUMLも3人にインタビューしていて、3人とも「UML 2.0は失敗」って言い切ってておかしかった。

特にEiffelのBertrand Meyerが強烈に手厳しくて、読んでるともう他の言語はどうしようもなくダメでEiffelこそが至高の言語という気になってくる……のは、おれがMeyerの「オブジェクト指向入門」でオブジェクト指向を勉強したせいだと思うけど。といってもいまだにEiffelは使えないけど(ダメじゃん)。

オライリーからPDFを買うならこちらだけど、いちおうAmazonへのリンクを貼っておく:

言語設計者たちが考えること (THEORY/IN/PRACTICE)
Federico Biancuzzi
オライリージャパン
¥3,098

9784756100504

Tags: ebook book

*1 といっても紙の本は手にとったこともないが。

*2 Rubyは日本語版だけの追加で、おそらくインタビュアも別人なのでかなり毛色(話の幅とかツッコミの深さ)が違うのが残念。


2011-04-16(土) [長年日記]

「東北関東大震災下で働く医療関係者の皆様へ――阪神大震災のとき精神科医は何を考え、どのように行動したか」を読んだ

東北関東大震災下で働く医療関係者の皆様へ――阪神大震災のとき精神科医は何を考え、どのように行動したか」というテキストが無償公開されていたので読んでみた。この本に収められている、中井久夫の手記「災害がほんとうに襲った時」ですな:

1995年1月・神戸――「阪神大震災」下の精神科医たち
中井 久夫
みすず書房
¥137

阪神大震災の直後から、神戸大学の精神科病棟で治療にあたった筆者の手記なのだけれど、いやもう、すごい。なにがすごいって(不謹慎きわまりない感想なのは百も承知だが)文体がすげーカッコイイのよ。おそらく精神科医ならではの姿勢なのだろうけど、対象からは一歩引いた視点が客観的でクール。それでいて賞賛すべき人は決して見逃さず、きっちり称える(が、過度に熱くならない)。いやぁ、これが1930年代生まれの力か。

災害と精神科というとPTSDのことばかりが取り沙汰されがちだが、災害直後はそれよりも既存の患者に継続的な投薬をすることの方が大切でかつ困難だ。筆者はそれを兵站の観点やボランティアの重要性の考察などをからめながらテキパキとこなす。避難所になった学校の校長への気配りなど、精神科医でなければ気づかないようなポイントにははっとさせられる。災害の現場で指揮をする立場の人にはすべからく読んで欲しい……というか、今じゃなくて二ヶ月前の被災地に届けたいよなぁ。これを読んでから災害に遭ったら心構えがすげーちがうぞ。

テキストの提供フォーマットはHTMLとEPUB。いつものようにcalibreでmobiに変換してKindleで読んだ。HTMLもケータイの画面に合わせて細長く整形してあるので、どれを選んでもストレスなく読めるだろう。

これらの提供フォーマットを考えたのが、この企画の発案者である最相葉月なのか、サイト制作を担当した「フジモト」なる人物なのかわからないが、被災地の制約のある環境のことをちゃんと考えているのがわかる。紙面をスキャンしてPDFにしただけとか、オンラインじゃないと閲覧できないFlashのビューアでお茶を濁している他の出版社とは一線を画すすばらしい仕事。

もっとも、これですら満足に閲覧できない環境もまだまだあるのだろうなぁ。というか、のんびり本を読む余裕もない医師、看護師も大勢いるだろう。願わくば、本書を必要としているできるかぎり多くの人の手に届きますように。

Tags: ebook

2011-04-15(金) [長年日記]

Jコミが理想から一歩後退してしまった……ような(2)

昨日書いた日記が非公式RTで広まって赤松健の目にとまってしまったので、なし崩し的にTwitterで質問タイムになったのだった。というか、基本的に「著名人は呼び捨て」という現代日本においてはごく普通のルールで書いてきたのに、こうやって直接会話してしまうと呼び捨てにはしづらいよなぁ。Twitter怖いです。

新サービス「ラノベ配信」開始の直前という忙しいさなかに長々と相手をしてもらって申し訳なかった感じだが、有意義な対話ができたと思うので、その時のもようをTogetterにまとめておいた:

震災以降、広告業界は本当にひどいありさまなので(なにしろしばらくのあいだいっさいの宣伝活動がなかったわけだから)、ここで言う「純広告」が少ないというのは真実だと思う。純広告が順調に入るまではmicro Adが使えるアルヌールでしのぐしかないだろう。一方でβ版の広告契約期限がくるまでに正式オープンしなくちゃいけなかったのだとすれば、アンバランスな状況もいたしかたないかな。

というわけでしばらくは(期待を込めつつ)状況を注視しましょう、というのが現時点でのおれのスタンス。もっとも、「純広告」に雑誌のスキームしか使えないというのもどうかと思うんだけど。広告代理店はJコミにマッチした提案をすべきなんじゃないかねぇ。今がんばれば数億円が動く新しいチャネルになるかもよ!*1

一方、気になるのがアルヌール上での閲覧で読者が満足すると考えている節が伺える発言があったこと。昨日も書いたように赤松健は一連の「Jコミ騒動」にまつわるインタビューで、手元にPDFを持つことでコレクターの所有欲を満足させることが大切だという意味の発言をしている。またつい先日打ち出した「違法絶版マンガファイル浄化計画」でもWinny等のP2Pネットワーク上に存在してる違法zipファイルを一掃しようと呼びかけているが、アルヌールでそれが実現できるとは思えない。クラウドにデータを置いておいても安心だと思えるのは、そのサービスの継続性がかなり確実な場合だけだ。悪いがJコミの継続性にはまだまだ危うい面があるわけで、手元にファイルを置いておきたいというニーズは根強いだろう。

そうはいっても「純広告」が入らないとそのニーズに応えるのもままならないわけで、ま、引き続き注目しつつ、KindleやSONY Reader(あとiPadも?)で読みたい人はしばらく我慢しましょ。赤松健も「PDFがいっぱい揃ったら、また見に来て下さい」って言ってるわけだし。

追記: アナウンス文から「上位3作品」という制限が消えたようだ。

Tags: ebook

*1 たった数億円ぽっちじゃ動かない業界かも知れないが(笑)。


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