2010-06-27(日) [長年日記]
■ くらやみの速さはどれくらい (ハヤカワ文庫 SF ム 3-4)(エリザベス・ムーン)
いつ買ったんだこれ……って、文庫か。それでも1.5年前だけど。積読箱がカオスになってきたなぁ。
傑作という評判も、「21世紀のアルジャーノン」という評価もまっとうなものだと思う。自閉症者を正常人(ノーマル)と十分に生活をともにできるレベルまで訓練する技術が確立したほんの少しの未来。ほとんどアスペルガーと見紛うレベルの知性を備えた自閉症の主人公の一人称で、自閉症者の感じる世界がノーマルに理解できる文体で書かれている。さながらそれは(SF的にみれば)日本語で書かれた異星人の手記のような趣だ。
われわれノーマルから見て彼らの見ている世界がどれだけ豊かで、異質で、興味深いかを知る手がかりとしてはたいへん面白かった。これでも彼らと生活を共にするのは苦労するかも知れないけど、それでも日本語が不自由な外国人とのコミュニケーション程度にはたやすいんじゃないかと思ってしまう。
ただ、どこからがフィクションなのかわかりにくいという意味で、へんな期待が醸成されてしまわないかとう心配もある。すべての自閉症者がルウのような特殊な才能を持っているわけじゃないだろうし。そういう観点で見ると、へんな誤解を生み出さず、それでいて想像の多様性が担保されている「元祖」アルジャーノンの方が優れた文学かも知れない……というのはひねくれた見方だろうか。