2010-03-28(日) [長年日記]
■ シアター! (メディアワークス文庫)(有川 浩)
最近の有川浩はあんまり恋愛小説を書いてくれなくなってしまったようなので、積極的に読もうとは思わなかったんだけど、flipperから読み終わった本が自動的に送られてくるので、けっきょく読むことにかわりはないのだ。いやまぁ、普通に面白かったけど。
弟が主宰する赤字劇団の借金返済支援のカタに、2年で黒字化する条件を突きつけるしっかり者の兄。劇団所属の女性たちが少しからみはするものの、恋愛要素はほとんどないと言っていいだろう。物語の構造は子供の集団に大人をひとり投げ込んだらどうなるか、という「ドラえもん」スタイルだ。「大人役」の兄の弱点がゴキブリというところも、弟の性格がのび太っぽいところも含めてそっくり。TV版のように教訓話では終わらないので、「劇場版ドラえもん」だと思って読めば間違いない。
そんなわかりやすい筋書きだから良くないというわけじゃなくて、まさに作中で叫ばれている「マニア受けはしないが間口の広い作品」を狙ってのものだろう。読書離れを食い止められるのはこういう作品だという作者のメッセージだと思う。だから、Amazonあたりで深みがないとか酷評してる人は、逆に自分の読解力のなさを恥じた方がいいんじゃないかな(笑)。
もっとも、そういう狙いなら(デビュー当時から相変わらずの)三人称の地の文に、とつぜん一人称が混じる変なクセを直した方がいいと思うんだがなぁ。というか、こういうのは編集者が指摘してやれよ。
私は3人称の中に突然1人称が混じるのは作者の個性だと思っていますけどね。確かに少し違和感を覚えますが、解らないことではないし、それも独特の書き方というか、味だと思っていいんじゃないかと思うのですが。だから編集も直さないのだという考え方でした。