2009-01-22(木) [長年日記]
■ ほかほかのパン (物理学者のいた街2)(浩一, 太田)
物理専攻だったので気に入るのではないかということでプレゼントされた本。写真が豊富なエッセイ集にしては立派な本だ。主に19世紀あたりのヨーロッパの物理学者たちゆかりの地を訪ね歩く紀行もの……かな?
という予想は、半分あたり、半分はずれだった。冒頭からマッカラーやヘヴィサイドなんて、名前も知らない、けどかなり重要な仕事をしている物理学者を取り上げており、彼らの「代わりに有名になった人」とのからみも交えながら、古き良きヨーロッパの街並みを訪ね、(現代の)現地の人々との交流なんかも描かれる。
はずれた半分はいわゆる「科学史」の領分だろう。あまり光の当たらなかったマイナーな物理学者たちの業績を、紀行文を通して紹介する。うん、これはいいね。廃墟になった生家がそのまま残っていたりするいかにもヨーロッパらしい風物と、歴史的な物理学者の生地なのに何も知らない近所の人々。諸行無常というか、それでも世界は進んでゆくのだなぁ。
などといい雰囲気に浸っていたのは序盤だけ。
マクスウェルやケルヴィンのような超有名どころが登場しだすと、紀行的な側面はぱったり影を潜めてしまい、たんなる有名物理学者の業績列挙になる。なにしろ有名人は残っているエピソードも多いから、それを全部盛り込もうとしてたんなる羅列になってしまっている。なんつうか、取捨選択の下手な人だなぁ。
おまけに物理学者だけでなく、数学者や技術者まで登場して、全体としては焦点のぼやけた一冊になってしまっているのが残念すぎる。ひょっとすると前の本は面白いのかも知れない……けど、こっちにもシュレディンガーとかキュリーなんて名前が出てるのが不安だな。