2007-03-04(日) [長年日記]
■ 老人と宇宙(そら) (ハヤカワ文庫SF)(ジョン スコルジー)
最近早川が出す新人作家の最初の翻訳作品は、ネット上での評価を見定めてから買うことにしようと思っているんだが(正直ハズレが多すぎる)、内田昌之ブランドには今まで裏切られたことがほとんどないので即買い。うん、面白かった。
「21世紀の『宇宙の戦士』」という評判はその通りで、はっきり言ってプロットは『宇宙の戦士』そのままと言ってもいいくらいだ。しかし、スコルジーはハインラインほど軍隊が好きではないようで*1、一歩引いて見ている感じがある。軍隊の描写にも合理性や効率性が貫かれていて、そこが「21世紀の」と呼ばれるゆえんかも知れない。
第一部の、軽やかでウィットに富んだ語り口がすばらしい。75歳以上の老人しか入隊できない謎の軍隊という、どちらかと言えば不安に満ちた出だしになりそうな設定なのに、人生を達観した主人公*2の決意がけっして物語を陰鬱にさせない。この雰囲気は重苦しい展開になる後半になっても消えることもなく、おまけに最後はラブストーリーになるのだ。殺戮の繰り返される宇宙戦争物が、こんなに後味のいい作品になるなんて!
SF的に見れば、設定や考証に破綻があるし、特に「原理はわからないけど便利な超テクノロジ」の使いすぎに辟易する面もある。どちらかと言えば「お話」を楽しむタイプの小説。
老人と宇宙(そら) (ハヤカワ文庫SF)
早川書房
¥968
ところで、SFマガジン4月号の紹介ページがひどい。前半の山場になる、「どうやって老人を使える兵隊にするのか」というネタをあっさりバラすばかりか、後半の戦争の設定まで明かしてしまっている。もし未読の人がいたら、ここは絶対に読まない方がいいだろう。あれは読者に読む気を失わせる最低の紹介記事だ。