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ただのにっき

2021-12-08(水) [長年日記]

映画『アイの歌声を聴かせて』を観てきた

午後の会議が消えてしまったので、明日で公開が終わってしまうこれを観てきた。なにせ周囲の評判がめっちゃ良かったからね。実際とても楽しめた。「大傑作」というと違う気がするけど(一般向けには良くできているけど観る側にパラダイムシフトが起きるほどではない)。

なんといっても舞台設定が良い。

将来AGI(強いAI)を生み出すのはほぼ間違いなくベンチャー企業になるので、この作品のように大企業の出る幕はないはずだ。革命を起こすのに同じチーム内で足の引っ張り合いをしてる暇なんてないはずだからな。じゃあ大企業ならではのアレコレを出したい場合どうするか。それを「特区」という形で表現したのがまず上手い。こういう行政を巻き込む大規模実験をするなら、大企業の出番なので(トヨタが街をひとつ作るのと同じ)。

こういうちょびっと未来な感じのテクノロジーが存在する時代に、田植えをする人型ロボットなんて馬鹿げた実験ができる環境だからこそ、法律スレスレのヒューマノイドを秘密裏に学校に送り込むなんて実験が通るわけですよ。こういう一定の説得力のある舞台設定が大好きなおれに対しては、それだけで成功が約束されたようなものである。ちなみにラストで経営者が大胆な指示をするのもリアリティがある。「敵役」が冒険を好まない小役人タイプなのが、本当にあるある。

このAGIの登場を怖れる(畏れる?)小役人と、能天気な推進派の衝突は、現実のAIをとりまく社会問題の縮図なわけだけど、そこをあまり深刻に掘り下げないのは、視点があくまで高校生だからなんだろうな。終盤重い流れになるものの、基本的に軽快で楽しい作品になるのは、若者たちらしい無責任な未来観を大事にしたいからなんじゃないかなーと思った。そしてそれはこの作品を成功させる大きな要素になっている。

学習過程にいまどきの機械学習の知見がかなり投入されているのは当然として、AIが生まれ育つ環境がインターネットそのもので、そんな環境でAGIが生まれるために「(いかにも人間っぽい)強い動機」があるのは、まぁオールドファッションSFとしても手垢がついてるくらいには常套手段だし、一般向けにも分かりやすくていいんじゃないでしょうか。

なぜかストーリーに触れてないけど、青春群像劇として十分に佳作だし、個人的にはむしろそっちに好みの要素が多いくらいだが(ショートヘアのヒロインとかさ)、こういうのは観てのお楽しみだからアレコレ書くことはしない。

Tags: movie