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ただのにっき


2018-09-24(月) [長年日記]

THE IDOLM@STER MR ST@GE!! MUSIC♪GROOVE☆」で次元の境界に迷い込んだ話

実は昔から「ごっこ遊び」はあまり得意な方じゃなくて。ごっこ遊びをしている自分の中には、その役になりきってる自分と、それを客観的に観測している自分が同居してると思うんだけど、北島マヤみたいに「なりきってる自分」成分が多ければ多いほど、ごっこ遊びは楽しい。自分はというと「観測してる自分」が9割方を占めてしまう姫川亜弓タイプなものだから、あんまりこの手の遊びは楽しめない。好きだけど、観察して演出家気分で俯瞰するのが楽しいタチ。

なので、この春にアイマスがゲームのキャラをそのまま現実のステージで歌い踊らせるMR ST@GEなる新テクノロジーを投入すると聞いて、すぐに「これはおれが楽しめるコンテンツじゃないだろうなー」と思った。いくらよくできてると言ってもしょせんCGのアイドルだ。そんな架空の存在に声援を送る観客は、よほどごっこ遊びが上手じゃないと楽しめないだろう。もちろん、もう10年以上も「プロデューサーなりきりごっこ」で楽しんできたアイマスPたるもの、それくらいのスキルは身につけてる。でも観測者として振る舞ったら楽しめないタイプのコンテンツなのも間違いない。

たぶん、同じ不安をおぼえた人は多かったと思う。MR ST@GEの出足はけっして好調ではなく、序盤は空席が目立つくらいの集客だったと聞く。ところが、観てきた人たちの評価はほとんどがポジティブ。口を揃えて「すごい、でも実際観なきゃわからない」と言うのだ。

だったら観ないわけにはいかないよなーと思い始めたところに2nd season開始の報。意を決してチケットを取った。もちろん「菊地真主演回」である。もう長いこと765ASのゲームはしてないから真のPだとはいいづらいけど、最初に観るなら真の回しかないでしょう。

[写真]DMM VR THEATER外観

なんてグダグダ言っても楽しみなことには違いないわけで、横浜のDMM VR THEATERには開場の30分も前に着いてしまい、売店でドリンクと軽食を買って、外のベンチで食べながら待つ。予習のつもりで真のソロ曲を選んで聴いてるけど、多すぎてなにがかかるのかさっぱりだ。歴史だよなぁ。

[写真]ご存知「たるき亭」によるコラボメニューからドリンクとクレープ

普段のアイマスライブとは明らかに客層が違うのが面白い。それはもちろん主演が真だからで、ちょっと着飾った女子がかなりの割合を占めている。そうそう、もし真のリアルライブがあったら、間違いなくファン層はこんな感じになるはずだ。架空のアイドルのライブをちょっと覚めた目で眺めにきたはずなのに、ぜんぜん別方向からものすごいリアリティを感じる出来事が起きて面食らった。こういう想定外は楽しくて良い。

事前にレポートなどを読んで知っていたとおりステージは2ブロック構成で、PS4版アイマスシリーズに登場するアイドルたちによるゲームバージョンの短い曲の「上映」が数曲続いたあとに「(生の)真のソロ」、それからMCを挟んで同じ構成でもう1ブロック。

序盤の「上映」部分は「まぁこんなもんだろうな」という想像を越えることはなかった。ステージ上にはほとんど透明のスクリーンが横たわっていて、そこにCGのキャラクタが投影される、ここ数年初音ミク界隈で急速に進歩したテクノロジーそのままだ。想像より立体感があるけど、複数キャラが交差する場面では奥行きのなさが露呈する。PS4版のモデルはよくできているので動きはリアルだけど、しょせんはアニメ調のキャラなので、少なくともおれは「真が実在してる!」みたいな幻想は抱けない。

1ブロック目のラストは真が人間のダンサー2人を引き連れてのソロ歌唱。曲は「WORLD WIDE DANCE」で、あれ、これライブでは初披露では? わー、これはラッキー、嬉しいね。このパートはすべてが生で、このコンテンツの肝だ。裏ではアクターが実際に踊ってリアルタイムでモーションキャプチャされ、CVの平田宏美さんが実際に歌っている(はず*1)。さすがに一気に「人間っぽく」なる。ダンスも歌も、まさに「菊地真のライブ」だ。

といっても、ダンサーと交差するとかすかに向こうが透けて見えるし、そもそも頭身の違いがかえって違和感を強調してしまう。シンデレラガールズの類似コンテンツでは頭身を上げた新モデルにしたんだから、こっちもそういう調整しても良かったんじゃないかね。……などとあいかわらず客観視してるおれである。

曲が終わるとMCタイムで、観客と真がリアルタイムで対話する。事前にレポートを読んでいて、このときの観客はファンなのかプロデューサーなのか判然とせず、強い違和感を抱いていたんだけど、実はこのシーン、バックステージなのだ。だから我々はファンじゃなくてPとして振る舞うのだね。これはわかりやすくて良い。真は演出上のアドバイスをおれらに求め、ルーレットで指名された1人が即興で答える。これけっこうキツいな(笑)。自分が選ばれたらどうしようって焦る。もちろん真(を演じる宏美さん)もアドリブである。真として破綻のない受け答えができるスキルと十数年の経験をもつ、765プロのCVにしかできない芸当。このコンテンツがシンデレラでもミリオンでもなく、765ASに割り振られた理由がここにある*2。指名された人が開演待ちの間になにをしてたなんて会話まであって、見られているのは実はこっち側であるという逆転現象も楽しい。我々がアイドルを見ているとき、アイドルもこっちを見ているのだ。

とはいえアドリブの会話ともなればアクター側はそれを聴いてから動きをつけるわけで、そのちょっとしたタイムラグがかえって不自然に感じる要素にもなっていて難しい。MCが終わるとふたたびユニットによる「上映」パートに入り「このまま白けた気分で終わるんかなー」と残念な気持ちになっていたところにそれは起きた。

最後のソロ曲は「絶険、あるいは逃げられぬ恋」。女性ファンだけでなく男性ファンも死ぬヤツである。ダンサーは背もたれのある椅子を持ち込んで、それを使った激しいダンス。もちろん真はめっちゃカッコイイ。

その中で、ダンサーが流れるような動作で椅子を真の横にすっと置く。すると真はその椅子に片足を乗せ、そのままセクシーに踊り始めたのである。何が起きたのか、自分の脳がかろうじて把握しはじめるまでコンマ数秒。椅子の座面と真の足裏、その接点は3次元なのか? それとも2次元? 混乱する脳をよそに、ひとしきりダンスシーケンスを終えた真は、こんどは椅子の上に飛び乗った!*3

その後の記憶は少々曖昧だ。混乱し、なんだかよくわからない感情で涙が流れていたのは確かだったと思う。あの瞬間、まちがいなく真はこっちの次元に来ていたし、おれと同じ世界に実在していた。理性的にはそんなはずはないのに、それが間違いないという確信がある。次元の境目をぐずぐずにされて、不安で気分が悪い。SF者としては、この不快感はむしろご褒美なんだけど。

[写真]会場出口にはハンガーにかかった真のジャージとタオル

退出時、わずかに残っていた理性が押したシャッターには、真が会場まで走ってきたあと、洗って干しておいた765プロのジャージが写っていた。理性的には「そういう体」の演出だとわかっているが*4、心の片隅には「あのステージにいた真が着ていたジャージ」だという確信が潜んでいる。しばらくはこの写真を見返すたびに心がざわざわしそうだ。こっちが向こうに行くVirtual Realityでなく、あっちがやってくるAugmented Realityでもない、Mixed Realityの「怖さ」を感じると同時に、10年以上寄り添ってきた担当アイドルと同じ空間に存在していたという幸福この上ない気分を味わえた不思議な1時間でもあった。

*1 舞台裏の様子はいっさい公表されておらず、体裁としては「菊地真のライブ」という枠組みを決して崩さないルールになっている。なのでこんなことを書くのも実のところ「ヤボ」ではある。

*2 2nd seasonにはやよい主演回があって、アドリブが得意でない仁後ちゃんはどうするんだろうと勝手に心配していたんだけど、観に行った人たちによればむしろそれが「やよいらしさ」を醸し出していて大成功とのことだった。よくできてるなー。というか、長年の付き合いでキャラと声優がほぼ一体化してしまったアイマスゆえのエピソードでもある。

*3 なお、椅子を使った演出は1st seasonでもあり千早が「椅子に座った」そうである。事前にこの知識があったかどうかで感じ方はだいぶ異なりそう。おれは今回、完全に不意打ちを食らったということだ。

*4 やよい回では箒が、雪歩回にはスコップが置いてあったそうだ。


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