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ただのにっき


2012-10-05(金) [長年日記]

挑む力 世界一を獲った富士通の流儀(片瀬 京子)

7月の送別会でいただいた本。やっと読めた。ありがとうございます。

ようするに富士通が取り組んで成功した8つのプロジェクトについて、その担当者たちへのインタビューを集めた本である。富士通の「泥臭さ」に焦点をあててるのでけっしてかっこよくはないけど、まがりなりにもちゃんと稼働しているビッグプロジェクトもあるんだぜということで、世の中「動かないコンピュータ」ばかりじゃないことがわかってよろしいんじゃないでしょうか(笑)。

Web業界に近いところにいると、日本のIT企業が低迷しているのはすべて大手SIerが悪いみたいな印象を持ってしまうし、そういう面があるのはまったく否定しないものの、本書が扱っている「スーパーコンピュータ『京』」や「東証アローヘッド」みたいなシステムをアジャイルで作られたらたまんねーなとも思うわけで。そういえば、本書に出てくる多くのプロジェクトは、ちゃんと「オンサイト顧客」を実践している。これだけは実践できていないアジャイルプロジェクトも少なくない中、真に顧客とともにシステムを作り上げる姿勢はとても良いと思う*1

もっとも、200ページあまりの中に8つのエピソード(+解説もろもろ)をつっこんだせいで、各々のプロジェクトへのツッコミが足らない。プロセスをはしょってうまくいったという結論ばかりを羅列しているるので、IT業界に精通していない読者には何が成功要因なのかさっぱり伝わらない。そんなプロセス不足を浪花節で補うものだから、プロジェクトXの末期みたいな薄っぺらい「宣伝番組」のようになっている。というか、どうみてもこれは富士通のプロモーション本だよなぁ。まぁ、何にでも手を出してフォーカスがはっきりしないというのも実に大手SIerらしいので、それはそれで正しい現実を表現しているといえなくもないが。

ともあれ、題材は悪くないのだから、もうちょっとテーマを絞ったらよかったんじゃないかと思う。とくに最後のブラジルで手のひら静脈認証システムを売り込む話はめっぽう面白いので、富士通ブラジルの社長本人にこれだけ単独で一冊書いて欲しいねぇ。赴任して30年余、現地で妻をめとって定住までしてしまった新世代ブラジル移民の話なんて、エピソードには事欠かないはず。

Tags: book

*1 というのも富士通が元請けだから言える話であって、下請けや孫請けには遠い世界の話だろう。


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