ただのにっき
2012-06-15(金) [長年日記]
■ やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識 (田崎 晴明)
昨日の『放射線医が語る被ばくと発がんの真実 』に続いて放射線対策関連書籍を読んだ。フリーのPDFなのでISBN番号はない。が、たいへんな力作だし良書なので、PODとかで紙でも売ればいいのにと思わなくもない。なお、Kindleに入れて快適に読む方法は先日書いたとおり。
昨日の中川医師は放射線医だったが、こちらの著者は物理学者ということで、軸足は科学的な確からしさに重きをおいていて*1、出発点もそもそも核分裂とはなんなのかから入る。さすがに大学の先生だけあって、体裁はすごく教科書っぽい。なにしろ演習問題まである! ついでに書いておくとなくても良さそうな脚注が多すぎるところもそれっぽい!(笑)
著者の意図は核物理学による現象は我々が慣れ親しんだ化学反応をベースにした常識からはかけ離れているということを理解してもらうことにある。放射性物質は熱を加えても半減期は短くならないし、特殊な微生物を使って分解することもできない。内部被曝は外部被曝よりはるかに危険(なはず!)という我々の「直感」が間違っていることを、平易な言葉で筋道立てて説明する。直感や常識にのっとって判断すると往々にして間違った結論に至ってしまうことに、いつも注意を払わなければならないのだ。
そんな、これまでの常識とは違う放射線の知識を、「新しい常識」にして欲しいと著者は願う。この願いは科学者としてまっとうなものだと思う。が、それは難しいんじゃないかなーとも思う。とくに大人は、いままで培ってきた常識を入れ替えるのが難しいし。やっぱり大人には、昨日紹介した中川医師の本を薦めたい。一方、まだ頭がやわらかい若者や子供たちには、まず本書を手にとってみて欲しい。普通に核物理学の入門書としてもわかりやすいし。
あと蛇足だが、基本的に現在は(一部地域を除いて)日本は安心して暮らせるレベルにあるという結論に、そのために日々たいへんな努力をしている人たち、とくに農産物を作っている人たちへの賞賛と感謝を忘れない、そんな著者の姿勢はすばらしいと思った。自戒も込めて。
*1 そしてもちろん、「確かでないこと」を明らかにしつつ進む、たいへん正しい科学的態度。