ただのにっき
2012-06-14(木) [長年日記]
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放射線医が語る被ばくと発がんの真実 (ベスト新書)(中川 恵一)
昨今の放射性物質汚染関連に関する発言でもっとも信頼に足る人物の一人である、中川医師による本。ちょっと時間がたってしまったがようやく読んだ。
放射線医というだけあって、あくまで健康面に軸足を置いて、この困った時代のリスクにどう対処すべきかという指針を提示している。放射性物質汚染によって発生するリスクはけっきょくのところガンになるリスクだと定義した上で、そもそもガンとはどういうものかという解説にかなりの紙数を割いていて、その中で今回の事故に起因する放射線によるガンがどのレベルに位置づけられるのかを明確にしている。ここには、起きてしまった事故についてどうこうする(つまりはこれから原発をどうするかという話題)ではなく、「すでに存在する(存在してしまっている)」放射性物質がもたらすリスクとどう付き合っていくかという現実的な話しかない。おかげで焦点がぼけることなく、とても有用な本になっている。
さらに思い切ったなーと思うのが、よくある核分裂のしくみだとか、シーベルトとベクレルの換算だとか、一般の人の多くができれば避けて通りたいと感じてしまう「科学的」な部分はいっさい書いていない点だ。そのかわり、現在採用されているさまざまな「基準値」や「指針」がなにをベースに決められていて、どうして世界的に信頼できると考えられているのかというポイントを解説している。科学的に正いしからという理由付けでなく、なぜみんなが信用しているのか(その背景に科学がある)というスタンスなので、その信頼性に納得できればとてもわかりやすい。
まぁ、これでも納得できない人はいるわけだけど、そういう人たちはもう、カルト宗教にはまっちゃったようなもんだからなぁ。こういう本とは別の方向からのケアが必要なんだよね。