ただのにっき
2011-09-13(火) [長年日記]
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夜明けの言葉(ダライ・ラマ14世)
以前紹介した『本が好き!』、あれから3回ほど献本に応募して、そのたびに抽選から外れていたのだが、そもそも読みたい本がなかなかなくて、きっとおれが読みたがる本は競争率が高いに違いない(とは思えないけどいちおうそういう仮説)、じゃあ間違っても自分から読もうとは思わなそうな本に応募してみよう! という方針変更で臨んだら一発で当選してしまいました。それがコレ。どういうこったい!
厳格な無神論なので、宗教関係の本は研究目的でもない限り読むことはないから、まぁ貴重な経験ですな。もっとも、これまでに見聞きしたダライ・ラマの発言には頷くことも多かったので、特に違和感はなかった。というか、誤解を招き、低俗な響きになるのを承知で言うなら、いわば「抽象度の高いライフハック本」である。
ダライ・ラマ14世本人が執筆したものではなく、たくさんの講演の中から、だいたい1ページ以内に収まる分量で抽出した「引用集」という体裁。発言の内容によっていくつかのカテゴリに分けられている。すべて独立しているからどこから読んでもいいし、カテゴリに縛られる必要もない。あと、チベット各地で撮影されたたくさんのカラー写真が良い彩りを添えていて、見ても読んでも楽しめる本。
面白いことに、チベット仏教の高僧の講演なのに仏陀に関する話はほとんどなくて、いつでも慈悲深くあろうとか、「敵」とどう向きあうかといった「生き方指南」的な内容がほとんど。それも「超自然的な何か」を仮定することなく、なんでも合理的に説明しているので納得度がすごく高い。仏教はもともとそういうものだけど、おそらく修行僧に向けたと思われる説法以外はすべてそんな調子なので、巷のライフハック集から下衆な部分を徹底的に排除したらこんな感じになるんじゃないか。ライフハック好きにはウケそう。
一方、構成面での問題があって、そもそもこれらの言葉がいつ、誰に向けて発せられたものなのかという情報がいっさいない。仏陀や輪廻という言葉が出てくるところはたぶん修行僧に向けての説法だと想像できるけど、その他の引用はどういう文脈で語られたのかまったくわからない。つまり「引用」のルールがいっさい守られていない。たぶんカテゴリ分けも編者の一存で決められていると思われるので、ダライ・ラマの意図とは違う読ませられ方をしてしまう恐れもある。文脈から離れて意味を持つ言葉はもちろんあるだろうけど、それを検証できないというのはちょっと危険だなぁと思った。