ただのにっき
2011-05-07(土) [長年日記]
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キュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる (ちくま新書)(佐々木 俊尚)
2月にパブーで買ったのに、やっと読み終えたという。電子積読が多すぎる……。
バズワードをタイトルに掲げる本は眉につばしながら読むことにしているので、本書もその方向で。というのも、インターネットが普及しはじめてすぐに情報洪水をどう扱うかという話題は出ていたし、その対策として「編集者」が必要であるという議論もまた当たり前のように出ていた。ここで言う「編集者」は情報を集めて整理し、コンテキストを与えて提示する役割をする人で、本書で述べられる「キュレーター」そのものだ。だから、「キュレーションの時代」は今に始まったことではないよな。もちろん、ソーシャル・ネットワークの発達でキュレーターが見出されやすくなってきたのは確かだけど。
本書の構成はほとんどが事例紹介で、「いまこそキュレーターが必要な時代」という本書のテーマに沿った多種多様な事例が盛り込まれて、本書の構造そのものが著者の考える「キュレーション」を体現しているのだとわかる。その多様っぷりは驚くほどで、ITだけでなく19世紀の絵画から現代音楽まで、なるほど著者の情報収集能力や興味の幅広さはすごい。
ただ、だからこそ本書の事例の集め方が適切かどうかはなかなか検証できないわけで、「キュレーション前」の雑多な情報が正しいかどうか判断できない読者にとって、キュレーターを信用できるかどうかもまた定かではない。なにしろ著者は自説(コンテキスト)の展開に適した事例を集めているわけで、同様にまったく逆のコンテキストを成立させる事例を集めて本を書くこともまた可能なはずだ。けっきょく情報の洪水のあとには、キュレーターの洪水が待ってるだけのような気もするね。
筑摩書房
¥990
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