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ただのにっき

2011-01-05(水) [長年日記]

ようやく「まおゆう」を読み終えた

先月21日にPDF化した「まおゆう」こと「魔王『この我のものとなれ、勇者よ!』勇者『断る!』」、やっと読み終えた。いやー、長かった。面白かったけど。先日出た書籍もけっこう売れているようで、よかったですな。

骨格は「ドラえもん」のバリエーションというか、SF的に言えば「未来の外挿」タイプ。おなじみの「剣と魔法」世界に、(現実の)未来のテクノロジーを無邪気に投入したらどうなるかというシミュレーションが前半。「経済」というキーワードで語られることが多いけど、経済も含めたテクノロジーの話だと思うよ。

うってかわって後半は骨太の「物語」で、新旧テクノロジー、魔法と科学が入り乱れる戦争描写がメイン。前半に仕込んだタネがいっせいに芽吹いて葉を広げ、けっこう感動的なラストへ。この大長編で読者を飽きさせないストーリーテリングは素晴らしい。こんなに思い切って「ファンタジー」を否定してしまって大丈夫かいなと思いながら読んでいたけど、むしろそこがウケているのかも。

ただ後半になると誤字が急増していかにも「書き飛ばした」感が強まるし、登場人物が入り乱れて前半にくらべて格段にわかりにくい。このあたりはおそらく書籍版では直っていると思うので、気になるなら本を買った方がいいだろう。ちなみに手元ではできるだけ誤字を修正、縦書きでも読みやすいように英数字を置き換えた青空文庫フォーマットのテキストがあるんだけど、これって配ったらまずいんだろうなぁ。ライセンスが明示されてない著作物って面倒デスネ。

あと、登場人物には固有名詞がなくて役柄(ロール)名しか与えられていないため、会話中でもロールで相手を特定するんだよね。しかもなぜか代名詞がほとんど使われないので、めっちゃ不自然。これが作者の作文技術のなさゆえなのか、特定フォーマットを模すためにわざとやっているのかわからないけど、読んでて白けるのが難点。人間はこんなふうに会話しません。


そういえば、少し前に書籍のフォーマットに関していろいろ文句を言っている人がいるのを知ったのだけど(たとえばTogetterだとこのあたり)、書籍を神格化しちゃっててなんだかなーと感じた。2chが原典で、最初の編集物がまとめサイトだとすれば、書籍なんて三次メディアに過ぎないわけで、それだけ後発ならいろいろ手を入れて工夫するのはむしろ当たり前。原典にあたりたい人はネットを探せばいいわけで(いつでもタダで読めてしかもコピーがとれる!)、いまどき「最初の書籍化」なんてものに原典的な価値を求めてどうすんのかと。

だいたい、ト書きすらない、セリフとオノマトペのみで構成されているこの作品は、一般的には「戯曲」の一種なのだろうが、むしろ(マンガの)「ネーム」と呼ぶほうがふさわしい(本来のネームはそういうものじゃないけど)。なんせ「ばさりっ」なんてオノマトペが説明抜きで登場するんだから(状況からしてたぶんこれは「天幕をめくって人が入ってきた様子」)、あとはコマ割りをして絵を入れればマンガになる。

だとすれば最初の書籍を小説の体裁で出すなんて保守的発想もいいところで、むしろ最初から少年ジャンプあたりで連載した方がよかったんじゃないの。この国ならむしろコミックスの方が後世に残るでしょ。書店で入手できなくなってもマン喫で一気読みできるし、絶版になったらJコミに置けばいいわけでさ。そういう観点で今回の書籍化を「残念」というならわからんでもない。もっと冒険したっていいだろうに(いや無茶を承知で書いてるけどさ)。

まおゆう魔王勇者 (1) 「この我のものとなれ、勇者よ」「断る!」
橙乃 ままれ
KADOKAWA/エンターブレイン
¥1,320

Tags: ebook book