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ただのにっき

2010-08-31(火) [長年日記]

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら(岩崎 夏海)

この本の存在を知ってすぐに読んでみたいとは思っていたんだけど、買いそびれているうちにあれよあれよとベストセラーになってしまった。で、ベストセラーは買わない主義なんだけど、部下が貸してくれたのでポリシーを曲げずに読むことができたよ、ありがとう!

本来の意味でのマネージャーと、日本での「マネージャー」の違いを逆手にとったアイデアの勝利だけみたいな本なのはわかっていたけど、なんというか、本当にそれだけの本だった。元ネタがドラッカーのエッセンシャルだとすれば、この本はいわば「架空の導入事例」で、それ以上でもそれ以下でもない。

ただ、こういう本がベストセラーになってマネージメントの本来の意味を多くの人に知ってもらえたのはいいことだ。

なによりも重要なのが、本書に出てくる「マネージャー」が最初からマネージャー職としてこの仕事についている点だ(途中、専門職からスキルチェンジしてくる人物がいるけれど、それも彼の特性を見極めた上だ)。つまり、マネージャーは「マネージメント」をする専門家がつくべき仕事であるという描かれ方をしている。

一方、日本でのマネージャーは多くの場合、経験をつんだ専門職がステップアップする先だが、ステップアップとは名ばかりで過去の専門知識が生かせない、いわば「転職」を強いている。結果、日本の多くの企業では本書が説く「強みを活かす人事」とは正反対の人事が行われているわけで(結果としてその企業の競争力を削いでいる)、読者の中にそういう日本の組織のおかしな点に気づきがあるといいなぁと思う。マネージャーは「偉い人」ではないんだよ。

ひるがえって小説としては、しょうもないというか、「ベストセラーってたいていこういう本」というイメージのままだった。文章はつたなくて出来の悪い英語の教科書みたいだし*1、ストーリー展開も丸分かりすぎて、読書体験としてはお粗末極まりない。なにしろ「失敗が大切」みたなことを書いてるわりに、ほとんど挫折らしい挫折もない一本調子の話なので、盛り上がりに欠ける*2

ドラッカーをベースにはしていないけれど、高校野球にマネージメントを持ち込んでいるという意味では『おおきく振りかぶって』の方が成功もあれば挫折もあって話として面白いのでオススメ(マネージメントをするのは女子マネではなくて監督と顧問だけど)。なによりも本書では省かれている「組織が目標を共有する」場面がきちんと描かれているのが素晴らしい。

おおきく振りかぶって (1)
ひぐち アサ
講談社
¥29

Tags: book

*1 「今日は、私はベンです」「これはペンですか?」「いいえ本です」みたいな感じ。

*2 わかりやすい「お涙頂戴場面」はあるが、わかりやすすぎてアレな感じ。