ただのにっき
2006-06-15(木) [長年日記]
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火星縦断 (ハヤカワ文庫SF)(ジェフリー・A. ランディス)
まず褒める。
NASAの現役研究者が、本業から得た知見を元に書いた、本格的火星探検SF。面白くないはずがない。探検隊に襲いかかるトラブルが、小説を盛り上げるためにわざとらしく作られたひどい自然災害とかではなく、実に「ありそう」な小さな人為的ミスなのがいい。そういうのが積み重なって、じわじわと探検隊を危機に追いやっていくところがリアリティたっぷり。小道具もいい。特にバイク乗りとしてはダート・ローヴァには乗ってみたい!
最後の最後を除いて、ストーリー的には大きなどんでん返しもなく、誰がヒーローになるのか予想通りだし、誰が死ぬのかもだいたい読めるけど、だからといってつまらなくなったりしない。基本的に探検隊はひどい目に遭いつづけるわけだが、読者は彼らに感情移入しつつも、けっして火星が怖くなったりしない。むしろ、行きたくてしかたがなくなる。そういう意味で、後半やや駆け足になるものの、冒険小説として素晴らしい出来。
そしてけなす。
大昔からSFは、「人間が描けていない」といわれ続けてきたせいか、どうにかして「人間」とやらを描こうとして無駄に紙数を使う作家があとをたたない。本書もそうで、登場人物全員の生い立ちと幼少期のトラウマみたいな話を延々と描く。おかげで「小説」としては深みが出たかも知れないが、「SF」としての面白みやスピード感がずいぶん薄まってしまった。読んでいて気が散るし、そんな背景はなくても説得力のある書き方はできるだろうに、と思う。SFなら「人間」じゃなくて「人類」を描かんかい! と思うんだが。
ランディスには短編も多いようなので、こういう邪念が入り込む余裕のない短編をもっと読んでみたい。短編集きぼんぬ。
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ページをめくれば (奇想コレクション)(ゼナ・ヘンダースン)
ピープルシリーズかと思って買ったら、シリーズ作品は1本だけで、あとは無関係な短編だった。とはいえ、読むと幸せな気分になるいい感じのお話がほとんどで(一部ホラーっぽいのもあるけど)、あらためてヘンダーソンが好きになる。中学時代の恩師が女性だったせいか、特に教師モノにはちと弱い。
余力で『血は異ならず』を読もうと思ったが、本棚から発見することができなかった。うーん、残してあるはずなんだが……。