ただのにっき
2017-09-17(日) [長年日記]
■ 映画「ダンケルク」を観てきた
先日「戦争のはらわた」を観てきてから戦争映画にはまりつつあるかみさんから「ダンケルクを観に行こう」と誘われたので行ってきた。「苦手な教科は?」と聞かれたら真っ先に「社会科!」と答えるくらいに歴史とかてんでダメで、この映画がなければ「ダンケルク」なんて地名も死ぬまで知らずに過ごしたに違いない、そんなおれにも楽しめる作品だろうか。というか、評判も賛否入り乱れてるんだよなぁ。
……と、そんなのは杞憂でしかなく、じゅうぶんに楽しめたのだった。終了後に立てなくなるほどの傑作ではないけど、十分に佳作。よくできた映画だと思った。4DXでの回を設けているシネコンが少なくないけど、映像、音響ともにアトラクション的な作りなので、なるほど4DXなら楽しめそう。いや、楽しくはないか。臨場感ありすぎて死ぬほど怖そう。
そう、なによりも映像作品としては、主人公3人の視界より広い部分が見えることがないので*1、FPSってほどではないものの、感覚的にはそれに近い。主人公の実感がそのまま観客の実感に重なる上に、ほぼ全編IMAX用カメラで撮られた映像の解像度もあいまって、喜怒哀楽がダイレクトに伝わってくるのが良い。
主人公は、撤退中の若い兵士(陸)、民間小型船の船長(海)、スピットファイアのパイロット(空)の3人で、いちおうクレジットに名前はあるが作中で名前を呼ばれることはほとんどない。それくらい抽象的で個性がない。これをもって「人間が描けてない」とか「物語がない」という批判があるようだ。
あー、その批判、何十年もまえから耳にタコができるくらい聞いてるよ、SFで。さらに言えば、その批判に応えるために、暗い過去を持つ主人公の生い立ちを過剰なまでに掘り下げて、本の厚みばっかり増えて中身は薄っぺらで面白くもなんともないSFが量産されたこともな!
「ダンケルク」の主人公たちは、ことあるごとに選択を迫られる。死体を埋めている知らない兵士を手伝うか、無視するか。イギリス領へ戻るべきかダンケルクに向かうべきか。先に撃ち落とすべきは爆撃機かメッサーシュミットか。どのシーンも生死にかかわるシビアな選択だ。そういう選択の積み重ねのことを「人生」って言うんだ。そして他者から見たそれを「物語」って言うんだよ、べらぼーめ!
というわけで、「人間が描けてない」とか「物語がない」なんて感想は無視してよろしい。ちゃんと人間が人間らしく描かれてるし、終盤の時系列が入り乱れつつクライマックスに収束していく構成はみごとな物語になっている。
できればIMAXシアターで見るべき作品らしいのだけど、近くのIMAXがなくなっちゃったのでなぁ。まぁ普通のスクリーンでもとても迫力あって良かったですよ。
*1 実際はそんなことなくて引きの画面も多いんだけど、神の目チックな視座からの映像がほぼないので、体感的に「視野が狭い」。