ただのにっき
2014-08-09(土) [長年日記]
■ 『未来の図書館を作るとは』(長尾真)
ほとんどの本をスキャンして、電子化してから読むようになってからというもの「本ってなんだろう」と考えることが多くなった。心理的にWebサイトないしWebページとは違うものと捉えているようなので、おそらく「ほぼ独立したパッケージになっている」というのは重要なポイントだと思う。持ち運べるというだけでなく、手元で線を引いたり、切ったり貼ったりして好きなように情報を加工できる自由も「知」を扱うメディアとして譲れないし、それも独立したパッケージになっていることの利点かも知れない。
そう考えると、活字の書籍だけじゃなくてCDやDVDのようなメディアも「本」になる。というわけで現状、自分の中では情報があるていど固まってりゃ「本」と言っていいんじゃないの、というかなり大きなくくりになっている。もっとも、いわゆる電子書店で扱っている本の多くはDRMがかかっていて自由に加工できないから「本」としては失格だし、最近はDVDなどもリッピングできなくなってしまったので以前は「本」だったのにそうでないものへと後退してしまった。
そんなときに元国立図書館館長の長尾真さんの本が達人出版会から出た(しかも無料ですよ、太っ腹)ので読んでみたら、なんか近いこと考えてるみたいで「おおお」となった:
長尾さんは国会図書館の電子化を強力に推進しただけでなく、そういう「本」の定義まで変えてしまおうと考えていた本当の革新者だったんだなぁとしみじみ。彼が館長でなくなってからの国会図書館はパブリックドメインな本の公開を一企業の横槍でやめちゃったりなんてこともあったりして少しがっかりな面もあるので、よけいに「しみじみ」だ。
書籍としてはかなり薄いので、期待の大きさのわりにはちょっと肩透かしな感じもある。巻末の対談でも長尾さんのしゃべりが少なすぎるというか岡本さんしゃべりすぎだろう(笑)と思わなくもない(インタビューじゃなくて対談だから問題はないのだけど)。でもまぁ、エッセンスがぎゅっと詰まった感じで有意義な読書だった。
これを受けて書籍・図書館関係者による未来の図書館をつくる座談会があって合わせて読んだのだけど、これだけのパースペクティブを持った本を受けての座談会のわりには「生んだ苦しみがあるのが本」みたいなふんわりした話がされていて、なんだかピンとこなかった。長尾さんの本をベースにしているというよりは、参加者が自分の言いたいことを言ってるだけというか。独立した座談会として読んだほうがいいと思う。終盤の「パブリックとはなんぞや」という話は面白かったけど。