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ただのにっき

2012-08-16(木) [長年日記]

復刻版 大宇宙の旅(荒木 俊馬)

(例によって4回応募するとかならず1回当たる)本が好き!抽選献本にあたった。松本零士のイラストが描かれた帯が本来の表紙を押しのけるように存在を主張していて「なんだかなぁ」という感じがしたのだが、中身は正真正銘面白かった。でも松本零士をプロモーションに使うのは間違っていると思うけど。

さて、本書は半世紀以上前に書かれた天文学の啓蒙書で、ターゲットは小学校高学年から中学生。ところが、これがけっこう難しい。中学生の「宙一くん」が星々に導かれて宇宙を旅する、ストーリー的にはファンタジーだが、骨格はガッチガチのハードサイエンスだ。数式はバンバン登場するわ、おまけに読者に自分で計算してみるように促すわと、小学生はおろか中学生にも荷が重いのではないかと心配になってしまうほど。現代でこれを企画したら編集者から数式は除いてくれと言われるに違いない。

だがもちろん、科学に興味のある中学生ならこれくらいがんばってついてくるのだ。作者のそういう出る釘をより高みに引き上げようという心意気が伝わってくる。もちろんいたずらに難しいわけではない。連星系の軌道や質量の計算はすばらしく整理されているし、風船を使って宇宙の膨張を説明するのにこれほど丁寧な解説はいままで読んだことがない。あと、打ち出の小槌で「相対性」を説明するなんてすごい発想。宙一くんと星々の語り合いも楽しいし、一言でいえば「手抜きがない」。これを読んで育った子供たちは幸せだ*1

古い本なので書いてあることはすでにかなり古びている。特に銀河中心への旅を「なにもないから」という理由で中止するなんて今なら「エェー!?」ってところだが、当時はブラックホールがあるなんて知られてなかったし。恒星の一生や銀河の距離など、現在の仮説とはだいぶかけはなれた解説になっていて、当然ながら子供に読ませて良いものではない。だが、科学啓蒙・教育にかけるその姿勢はとても真摯だ。これは理科の教師にちょっと手にとってもらいたいかな。

復刻版 大宇宙の旅
荒木 俊馬
恒星社厚生閣
¥3,080

Tags: book

*1 で、結果として出てきたのが100%ファンタジーの「999」というのはなんかアレだけど。という意味で松本零士を引っ張りだしたのはミスリードだと思う。