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ただのにっき


2009-06-08(月) [長年日記]

アッチェレランド (海外SFノヴェルズ)(チャールズ・ストロス/酒井昭伸)

IT業界的には「解説:小飼弾」という点が話題のポイントだったようだが、冒頭の「ロブスター」がSFマガジンに掲載されたときに日記に書いたように(もう6年も前!)、「おもしろオープンソース小説」として、一冊にまとまるのを長らく待っていたのだ。……というわりには、読むのが遅いんだけど。

もっとも、「ロブスター」みたいな、主人公「歩くGNU」マンフレッドが活躍する、笑える短編は最初の方だけ。章ごとに10年単位で経過する物語は、どんどん加速してコンピュータが人間の知性を超えるまでに……ってこれ、ヴィンジの<シンギュラリティ>を真正面から扱う小説だったのか!

個人的に<シンギュラリティ>は大好きというか、こういう未来が近いうちにきっと来る! と信じているのだけど、今までちゃんと描いたSFはなかったんだよね、単に便利な小道具程度にしか使わなくてさ。だから<シンギュラリティ>前後の世界にガチで向き合ったストロスは偉い*1

もっとも、作者が人間である以上、<シンギュラリティ>の渦中を描くことなどできるわけがないわけで、どうしても視点は取り残された旧人類の側になる。おまえに超知性であっても光速やプランク定数の制約を受けるわけで、ついに登場した<シンギュラリティ>後の世界は、思いのほかショボかったりするあたりがなんともリアルで面白い。結末の脱力感も含めて、ある意味ケッサクだなぁ、これ。

ただ、「ルータ」とか「DMZ」みたいな(今の)ネットワーク用語が使われてるんはカッコ悪いと思った。インターネットの延長じゃ新鮮味がないよ。あと頻出する「なんとか2.0」も興ざめ。まぁ、これは発表時期を考えればある程度しょうがないかも知れないけど、SF作家ならこういう言葉が廃れるのが早いのも想定すべきだ。

ちなみに「解説」だが。彼がブログで展開する「書評(のようなもの)」では、対象の本とはまったく関係ない話になるあたりが彼の「芸」なわけだけど、この本ではなぜか「ちゃんとした解説」になってしまっていて、なんだか肩透かしだ。これじゃ、小飼弾を引っ張り出した意味がないような? 編集者の要請か、はたまた筆者の自重だろうか。後者はないような気がするけど(笑)。

Tags: book

*1 というか、ストロス自身も他の作品では小道具程度にしか使っていなかったけど。


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