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ただのにっき


2008-07-12(土) [長年日記]

Webサイト設計のためのペルソナ手法の教科書 ~ペルソナ活用によるユーザ中心ウェブサイト実践構築ガイド~ (DESIGN IT!BOOKS)(Ziv Yaar)

Jakob Nielsenが「5人で十分ですよ」と言ったせいでユーザビリティテストの価値が低下することを懸念したWeb業界が、次なる金のなる木として取り出してきたのが「ペルソナ手法」である……という勘繰りをしたくなるほど、手間と暇と金がかかるペルソナ手法を解説する文書が最近やたらと目につくようになってきた。

実際は、たいした調査をしないで作った「なんちゃってペルソナ」であっても、現場の意識を変えるという意味ではすごく価値があるので、金かけなきゃペルソナじゃないという風潮はいただけない。今まで「私は~」と自分を主語にしてしかサイトを語れなかったWeb担当者が、「○○さんは~」とペルソナの名前で発言するようになったら、それはもう、パラダイムシフトと呼んでもいいくらいである。

そんな中「教科書」を名乗る本が出たので読んでみたが、けっこう良心的な本だった。説得する相手の価値観に応じて、必要なところまで金をかければよいという方針が冒頭から提示されている。なんでもかんでも完璧にやらなきゃダメという姿勢ではないので好感が持てた。

前半部分はその、手間・暇・金を食う調査のパートで、いくつかの調査手法の紹介と、その目的や達成できることの解説。本当に難しくなる最後の方は素直に「専門家を頼れ」と書いてあるだけなので、かえって信用できる。

ひるがえって後半は、ペルソナに関する「物語」をいかにつむぐかという、まるで小説技法に関する教科書の様相。自分はこのペルソナ法がけっこう好きなんだけど、この「物語(ストーリー)」を大切にする姿勢にひかれるんだな。ソフトウェア開発でXPに出会ったときに似た興奮を覚える。XPもストーリーを大切にする手法だ。物語があるのとないのとでは、成果物の深みが違う。

調査の開始から、実際のサイト制作、公開後の評価まで、ひととおりの過程にペルソナを導入して何が変わるのかを網羅的に解説しており、まさに教科書として十分な本だと思った。妄想力の有り余ってる人は、これ読んでペルソナ手法のコンサルタントを目指したらいいんじゃないかな!(そんな無責任な)

もっとも、いいところばかりじゃないけど。特に、図表がまったく翻訳されていないのはひどい手抜きだ。肝心かなめのサンプルを日本語で読めないなんて、何考えてんだか。この翻訳者たちは、この本の製作過程でペルソナを構築しなかったのだろうか。紺屋の白袴みたいな話だ。

Tags: book
本日のツッコミ(全3件) [ツッコミを入れる]
さと (2008-07-27(日) 13:13)

時間と想定される購入者層を天秤にかけて図表の翻訳は落としました、スイマセン。
次回は是非。

本当は事例も全て日本のものに変えたかったんですけどねぇ…読まれてわかると思いますがそうしちゃうと翻訳本じゃなくなるので、それも落しました。

ただただし (2008-07-27(日) 19:25)

「時間」は通常プロとしての言い訳には使わないものなのでスルーするとして、「想定購入者層」が肝心カナメのノウハウが詰まった図表を英語のままで良しとする人たちだとするなら、そもそも翻訳なんていらんのでは?
事例まで国内のものにする必要があるとは思えません。それこそ「想定購入者層」は日米マーケットの差異くらい吸収できるでしょうし。

さと (2008-07-28(月) 01:47)

「時間」というのはこの場合、値段に関係してくる要因でもあったのでなんとも言えません。
「想定購入者層」の見方の違いかもしれませんが、ある程度、英語の情報をわかるが詳細な情報まで追うのは面倒な方をターゲットと考えました。言われている通り、日米マーケットの差異ぐらい吸収できる方かもしれません。なので、国内事例を掲載するなどの方向もやめ、ストレートな翻訳本としました。

とはいえたしかに後半部分は「手抜き」と指摘されればその通りかもしれません、以後はもう少し気をつけるようにしたいと思います。

これからも長文の英語が得意でない人でも海外の有用なリソースに接する機会を増やせるようにがんばってみますので機会があればまたご指摘ください。


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